【レポート】妊活ラボ#2 「不妊治療への支援はどこまで拡充?」

妊活ラボ第2回目となる今回は、菅総理に不妊治療の専門家として直接意見を求められたこともある杉山産婦人科の杉山理事長にインタビューさせていただきました。
不妊治療への支援はどこまで拡充される予定?保険適用になった場合の年齢制限については?など、杉山理事長の率直なご意見、お話を詳しく伺いました。(2020/10/27配信の内容

政府が考えている不妊治療の支援拡充とは?

菅総理の突然の「不妊治療への保険適用」発言から不妊治療の支援拡充が話題となっています。
杉山理事長は、菅総理と直接お話をされたと伺いました。どのようなお話をされたのでしょうか?

実は菅総理のことは以前から存じ上げていて、総理になった時に突然お電話をいただいたんです。
「政策の1つとして不妊治療の支援拡充をして、日本の少子化対策を進めたい。費用の面でも助成金をどうやって有効に増やしていくか、将来的には保険適用も考えたいので現場の状況を教えてほしい。」とのことでしたので、日本の不妊治療に関する現状などをお話しました。

総理から直接お電話がかかってくるんですね!お話されてみてどんな印象でしたか?

菅総理は官房長官時代からとにかく現場主義の方なんです。なので、すごく経営者的な目線をお持ちの方なんじゃないかなという風に感じました。

なるほど。では、不妊治療の支援拡充という点で具体的にどのような点をお伝えされましたか?

まず不妊治療に対する助成金に関して、2点お伝えしました。

1つ目は、不妊治療で助成金をもらうには年収の制限がある点です。
ご夫婦の収入合わせて年収730万となると、東京都で仕事をされていると超えてしまうケースもあります。すごく超えているならまだしも、少し超えてしまっただけで急に助成金がもらえないという現実があることをお伝えしました。
2点目は、助成金自体の金額についてです。
体外受精は最低でも1回40万円以上かかるので、助成金の額も少し足りないという点をお伝えしました。

ありがとうございます。ちなみに菅総理は、不妊治療の助成金と保険適用、どちらを重要視されていますか?

基本的には、総理は保険適用にしか目が向いていません。

ただ、保険適用は予算ありきなので、不妊治療だけではなく、他の病気の保険適用や点数なども関係してきます。総理が保険適用を重要視されていたとしても、実現に向けては簡単ではないという風に僕は思っています。

不妊治療が保険適用になると私たちが支払う保険料が上がるかも?

不妊治療の支援拡充は決して簡単ではないですが、そこを支援していくことで今後の少子化対策につながるとの考えで政府は推し進めていきたいというところですよね

はい。保険適用についてですが、保険料は、我々の給与から毎月数万円引かれていますが、その保険料が保険適用となる際のトータルの財源になります。政府がそこにお金を注入するわけではないんです。

となると、保険料が上がるか、他の病気の点数が下がるかしかできません。
これから保険料を払う人口はどんどん減っていきます。
そこに不妊治療の点数がポンと入ってくるということは、他の科にとっては複雑でしょうね。

不妊治療の保険適用についてはメリットだけじゃなくて、私たちが支払う保険料が上がるかもしれない…。

その通りです。

現在、不妊治療の助成金、保険適用について政府の方で決まっているのは以下の2点になります。
1つ目は、助成金の額を2021年4月から引き上げるということ。
助成金は政府の予備予算から出すことができますので、目先のことを考えると助成金の方が他の科などにご迷惑がかからずに不妊治療の補助ができるからです。
ただ助成金は毎年変動する予算なので、将来的に0になる可能性もあります。
2つ目は、最終的に不妊治療の保険適用を目指して議論していくということ。
毎年予算が変動してしまう助成金と違って、保険適用は安定性が見込めるので、数年後の保険適用に向けてまずは議論していくということが決まっています。

クリニックの医療格差はある?ない?

ここでちょっと話が変わりますが、不妊治療を行っているクリニックの医療格差について、先生はどのようにお考えですか?

クリニックによる医療格差についてですが、決してないと僕は思います。

日本の体外受精は現在いろんな方法がありますし、たとえば注射は打たない方がいいのかとか、それともいっぱい打った方がいいのかとか。
これはどちらかというと結果論になるので、不妊治療がうまくいったらそのクリニックが自分には合っていたということだけで、うまくいかないクリニックの質が悪いわけでは決してないと思っています。

クリニックの選択については、なかなか治療がうまくいかない患者さん、これから始める患者さんにとって、とても悩まれると思います。
クリニックによる格差はないけど、方向性や方針は今極端にいっぱいあるので、もうちょっと真ん中寄りになると良いなという考えです。

なるほど。ちなみに患者さんに合った適切な治療を行うために、保険適用するなら混合診療を認めていくべきという考え方ですか?

混合診療をなくして、保険適用はありえないと考えています。
混合診療は、保険適用になるもの、オプションで患者さんがご希望されるものは自由にやっていいという、一部保険、一部自費を組み合わせた診療です。

ただ、産婦人科以外の科でも、混合診療を希望される患者さんは多くいらっしゃいます。
たとえば、抗がん剤なども海外から輸入して一番効くやつにも使いたいという方もいると思うんです。
ですが、今現状として厚生労働省は、混合診療を認めていません。
もし不妊治療だけ混合診療を認めるとなると、産婦人科としてありがたいですが、ちょっと虫が良すぎる話で難しいんじゃないかなと感じてはいます。

では、混合診療以外の課題点は何かありますか?

最初の方にお話させていただきましたが、補助する費用の面で2つ課題点があるんじゃないかなと考えています。

1つ目は、助成金について、年収、年齢、回数の制限がある点です。
たとえば、43歳以上は助成金がもらえないという制限がありますが、最近はいろんな治療法ができていて、43歳以上の方でも結構妊娠されていくんですね。
助成金は政府の予算ありきなので仕方がないことだと思いますが、年齢制限によって助成金がもらえる・もらえないという点は課題点かと思います。

2つ目は、もし保険適用になった場合に何か制限を設けるのかどうかという点です。
同じ保険料を払っているのに、たとえば年齢の制限があると、なかなかその辺の事は難しいなぁと思います。

不妊治療の年齢制限は設けない方がいい?

先生の病院では、40歳以上の方で不妊治療をされている方の割合はどのくらいですか?

当院の場合は、40歳以上の方は30%〜40%くらいです。
治療の成績や予算を考えると、43歳までというのが一応国の考えなのでしょうね…。

先生個人のご意見はいかがでしょうか?

個人的には、もし保険適用になったら年齢制限は設けず、本人が希望する限り自由に不妊治療ができるといいなと思います。

たとえば、他の病気では、年齢が高いから治療はダメですということはないわけです。
不妊治療だけ年齢制限を設けるというのは、同じ保険料を払っている限り、不平等なんじゃないかなと思います。

先生の率直なご意見をお聞きできて、大変参考になりました。どうもありがとうございました!

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