【レポート】妊活ラボ#1「生殖医療専門医に聞く、コロナ禍の妊活・不妊治療」

妊活ラボ初回となる今回は、不妊治療最前線で活躍されているメディカルパーク横浜の菊地院長をお招きして、コロナ禍での妊活や不妊治療、また今後の保険適用についてお話を伺いました。(2020/10/6配信の内容

当時「不妊治療を控えるように」と学会から声明が出されたワケとは?

緊急事態宣言が出る前の2020年3月末に、「不妊治療における移植は控えるように」との声明が日本産科婦人科学会より発表されました。その経緯や理由、現在の状況を教えていただけますか?

学会からの声明は、まず先に米国・ヨーロッパが続けて出して、その後日本からも出されたという流れでした。

当時は世界的にパニック状態で、医療資源もマスクも何もないっていう状況でした。
なので、医療現場において、まずは新型コロナウイルスの方に注力しようということだったと思います。

もう1つは、妊娠中のリスクに関してデータ自体が少なかったんです。
もし万が一、妊娠中にコロナにかかってしまった場合、使える薬が確立されていない中での治療は難しい…。そのような背景から、不妊治療は控えた方がいいんじゃないかというような論調がありました。

ただ、その後少し落ち着いたところで、リプロダクティブ・ヘルス&ライツの観点(妊娠すること、子どもを欲しいと思うことは基本人権の一つであること)から当時の声明は撤回され、現在は通常通り、不妊治療は行われています

コロナ禍での不安な妊活や不妊治療。どう考えたらいい?

今のコロナ禍での妊活、不妊治療について、不安に感じている患者さんも多くいらっしゃると思います。何か影響やリスクなどはありますか?

ご存知のとおり、現時点では、コロナに対する特効薬やワクチンができていません。でも特効薬ができるのを待っていたら、妊活や不妊治療もいつまでかかるかわからない…ということがあるかと思います。
ただ、フィジカル・ディスタンス(物理的距離)を取ることで、ある程度予防できるということはわかっているので、コロナ禍での妊活、不妊治療については、そこまで怖がる必要はないんじゃないかと思っています。

ちなみに先生のクリニックでは、コロナが流行し始めた2020年3月・4月に何かこれまでと違った対応はされましたか?

不妊治療を控えましょうという声明が出た直後は、採卵まではやってその後の移植はちょっと待ちましょうという形で、一時的に不妊治療を止めていました。
ただ、患者さんによっては、年齢の関係で不妊治療を進めたい方も当然いらっしゃいましたし、いつになるかわからない状況で先延ばしすることもなかなか出来ないので、様子を見ながら再開しました。

不妊治療の保険適用は実現可能?

次に、不妊治療に対する保険適用のお話を詳しくお聞きしていきたいと思います。
保険適用については、先生は賛成ですか?反対ですか?

僕自身は、概ね「賛成」です。

1つ目の理由としては、もし不妊治療が保険適用されるということであれば、救われる患者さんがたくさんいらっしゃるということ。
2つ目の理由は、今までの医療・保険制度の問題点を改善できるチャンスじゃないかなと考えていているからです。どこまで政治が動くかは今のところわからないのですが、いろんな問題点を抽出するにいいタイミングだったのでは?と捉えています。

なるほど。保険って結構複雑な仕組みですよね…。
では、現在の保険についてどの部分を改善すれば、不妊治療の保険適用に近づくのでしょうか?

まず、現在の保険(国民皆保険制度)は、「国民全員が誰でもどこでも安い医療費で高度な医療を受けられる制度」になります。メリットがある一方で、問題点もあります。

1つ目は、たとえば簡単な手術でも、難しい手術でも、「病院に入ってくるお金が同じ」という点です。病院にとっては、手術ごとに人件費や手術時間が異なるので、難しい手術をやればやるほど赤字になる形となります。
特に不妊治療の場合は、患者さんの状態に合わせて治療を進めるので、幅も広く、治療方法もそれぞれ全く違います。
不妊治療に関わる費用をすべて保険適用となると、簡単な手術ばかりになってしまったり、難しい手術が避けられてしまうことが懸念されます。

2つ目は、現在の保険では混合診療が禁止されている点です。
不妊治療においては、どうしても保険適用外薬を使うことが多くなってきます。
なぜ使う薬が保険適用外になってしまうかというと、保険適用の期間(たとえば2錠5日)より実際は長く服用する必要が出てくるので、そうなるとどうしても保険適用外になってしまう。
じゃあ、その薬を不妊治療で長く服用できるように保険適用させる場合には、製薬会社がもう一度、その薬に対して臨床試験を行わなければならない。でも対象となる薬を一から臨床試験を行うというのは難しいことだと思います。

ということは、不妊治療は、現在禁止されている混合診療を認めていただいて、保険適用になる部分、保険適用にならない部分を組み合わせていく必要があります。

不妊治療の保険適用を実現させるのであれば、この辺りもしっかり踏み込み、政治と医療者が深く議論していかなければならないと考えています。

混合診療とは? 保険で認められている治療法と保険で認められていない治療法が一緒になること。 「混合診療」を無制限に導入してしまうと、患者の保険外の負担が増えてしまうおそれ、安全性等が確認されていない医療が実施されてしまうおそれがあること。

厚生労働省HPより抜粋

確かにそうですね。細かいところまで決めてもらわないと、実際は保険適用したけど、結局高くつくことになってしまいますよね。

本当にそうですね。やるならしっかりわかりやすい仕組みを整えていくことが大事です。不妊治療の保険適用については、現在の保険制度を見直すための良いタイミングと考えているので、みんなが納得できるようなところまで煮詰めていただきたいなと思ってます。

政府は基本的に日本産科婦人科学会とか日本生殖医学会などの学会の意見を聞いているのですか?それとも医師個人の意見を聞いているのでしょうか?

学会は専門家集団なので、あくまでも意見は出せたとしても最終決定は政府の方にあると思っています。また先生個人が言ったから何か決まるとかそういうことはまずないと思います。

たとえば、保険適用の話に関しても、こちら側の意見は聞いてくれるけれど、政府の方である程度大枠は決まっているんじゃないかというのが僕の印象ですね。

保険適用実現までは、1〜2年くらいかかるんじゃないかと言われていますが、先生の見立てはどうですか?

なぜ2年と言われているのかというと、保険の点数の見直しが2年ごとなんです。
2020年は終わっているので、次は2年後となります。ただ、2年で保険適用が出来るかというと、先ほど話した通り煮詰めなければならないことが多いのでなかなか厳しいところはあると思います。

でも最近の政府を見ているとたとえばハンコをやめるとか動きが早いので、もしかしたら急に話が進むということはあるかもしれません。
いずれにしても今回政府から不妊治療という言葉が出たことで、みんなで考える良いきっかけになっていますので、見守らなければいけないなと思っています。

確かにそうですね。

菊地院長、貴重なお話をどうもありがとうございました!

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