今回は、「着床」というテーマを軸に、着床不全や子宮内膜症についてお届けします。
着床の分野において日々研究や診療に従事されている松本レディースクリニックの松本院長をお招きして、着床についてや着床外来での治療方法などについてもくわしくお話を伺いました。(2021/1/29配信の内容)
目次
着床とは?
さっそくですが、着床について教えていただけますか?
まず、妊娠にはいろんなプロセスがあり、全部がうまくいくと妊娠が成立となります。
まずは卵胞が育って排卵、受精したら胚(たまご)になります。たまごが育ち、卵管を通って、子宮に戻ってきて着床する。
着床とは、たまごと子宮内膜が接着すること、子宮内膜に沈んでいくことを指します。
子宮内膜症があると着床に影響がある?
「子宮内膜に沈んでいくことが着床」ということですが、子宮内膜症を発症すると着床や妊娠に影響を及ぼしますか?
これは、いいご質問ですね!
まず最初にお伝えしたいのは、子宮内膜症は、子宮の内膜が起こす病気であって、子宮の内膜自体の病気ではないということです。
ご質問に戻りますが、子宮内膜症があると妊娠に影響を及ぼすというのは間違いありません。
ただ、着床単体に影響するかどうかは、まだ解明されていないことも多いのではっきりとは言えないのですが、子宮内膜症があることで着床を妨げる可能性はあります。
となると、「子宮内膜症ができたら、すぐ手術で取った方がいい?」と思われる方も多いと思います。
手術を行うべきかどうかについては、現時点ではしっかりとした結論が出ていませんので、なかなか判断がむずかしい問題です。
なので、子宮内膜症がどの程度、着床や妊娠に影響を及ぼしているのか?という部分を慎重に見ていく必要があると思います。
子宮内膜症を発症される方は結構多いですか?
そうですね。
子宮内膜症が見つかっていない方もいらっしゃるので、正確な数字はむずかしいのですが、子宮内膜症があると不妊の原因となるのは間違いありません。
子宮内膜症の治療方法は?
子宮内膜症の治療について、くわしく教えていただけますか?
まず、子宮内膜症にはいろんな種類があります。
1番メジャーなのは、チョコレート嚢胞とよばれる「卵巣の子宮内膜症」です。
治療方法は2つあります。
1つ目は、ピルなどの薬を使う方法
2つ目は、手術をする方法
ただ、ピルは妊娠しないようにする薬なので、妊活をしている方は飲むことができません。
手術に関してですが、手術をするかどうか、手術のタイミングを見極めるのは非常にむずかしい問題です。
なぜかというと、手術をすると正常な卵巣を傷つける可能性が出てくるからです。
手術の結果、子宮内膜症はなくなったけど、卵巣の機能が低下して妊娠につながらくなってしまう可能性もあります。
また子宮内膜症は再発率も高いので、治療方法や手術のタイミングなどは、主治医の先生によく相談していただくのが良いと思います。
着床不全とは?
では、今回のテーマでもある「着床不全」とはどういうものなのでしょうか?
体外受精に例えるとわかりやすいのですが、いい卵を2回戻したけど妊娠しない。このような場合、着床に問題があるのでは?ということで、着床不全と言われています。
着床する際には
・たまご(胚)
・たまごを受け取る子宮内膜
この2つが必要です。
現在のところ、着床不全の原因としては、たまごの問題が7割、子宮内膜の問題が3割と言われています。
たまごによる要因が大きいんですね。
なるほど。では、着床には年齢や生活習慣は関係しますか?
着床や妊娠には、いろんな要素が組み合わさっているので、年齢や生活環境も関係します。
たとえば20代と40代ではたまごの状態は違いますし、加齢とともに子宮内膜症や子宮筋腫など病気になる確率もあがってきます。
妊娠全般に言えることですが、生活習慣も非常に大事ですので、喫煙はせず規則正しい生活を送ること、適正体重についても意識していただきたいと思います。
「着床検査」とはどんな検査?
着床検査は具体的にどんな検査になりますか?
子宮の内膜を見る検査がいくつかあります。
1つ目は、着床のタイミングを見るERA(エラ)検査。
たまごが接地するタイミング(着床の窓)がズレていないか等を検査する方法です。
2つ目は、子宮の中の環境を見る検査。いくかありますが、たとえば子宮フローラ検査とよばれる子宮の中の菌を調べる検査です。
子宮は無菌だと思われていましたが、最近、菌がいることがわかってきました。
子宮の中の液体を取って、菌の割合を見ます。90%以上乳酸菌があると良いと言われています。人によっては、大腸菌がいたりということもあります。
検査の結果によって、よりよい着床環境にすることを目的とする検査です。
着床検査を受けるタイミングはいつ?
先生のクリニックには着床外来がありますが、着床検査を受けるタイミングはいつがベストなのでしょうか?
タイミング法、人工授精の段階では、まだ着床検査を受けるのは早いと思います。
もし超音波の検査等で、明らかに着床を邪魔するポリープが見つかったときは、着床検査を受けてみてもよいかもしれません。
基本的に、着床検査を受けるタイミングとしては、体外受精までステップアップしてからがおすすめです。
たとえば、採卵、培養、凍結が完了して、いつでも移植できる状態。そしていい卵を2回移植したけど着床しないときは、着床検査を受けるタイミングであると思います。
移植する前に着床検査することはできるのでしょうか?
移植の前に検査を受けることはできます。
元々は、2回移植してから検査することを基本としていましたが、患者さんの方から「せっかくのたまごがムダになる可能性があるなら、移植する前に検査したい」という声がありました。
なので、当院では、まずたまごを確保(凍結)したら、「先に着床検査をするか、移植してダメだったら検査をするか」を患者さんに説明し、選んでいただいています。
今のところ、割合としては、半々くらいです。考え方の違いなので、どちらも正解です。
移植前に検査を受けるか、移植後に検査を受けるか患者さんが選択できるんですね。
その通りです。
また着床検査は、高額であること、結果が出るまで3週間ほどかかってしまうので、その辺りも含めて検討いただけたらなと思います。
着床に際して気をつけた方が良いことなど
着床までに気をつけた方が良いことはありますか?
健康に気を付けて、普通に過ごしていただければ大丈夫です。
移植した日は寝たきりの方がいいと言われていた時代もありましたが、今はそういったことはありません。
実は、いつ着床するかというのもわかっていないので、普段通りの生活をしていただければOKです!
温活などは、排卵後の着床に影響はありますか?
温活は、民間療法のようなものなので、効果についてはちゃんとしたデータが出ていません。
これは推測になるのですが、冷え性の人が子宮のなかの温度が低いかと言われるとそうでもない。
なので、温活をすることで夜ぐっすり寝られる等、その方にとってプラスにはたらくのであれば良いのではないでしょうか。
ただ、温めすぎはよくないと言われているので、連日サウナに入るというのはおすすめしません。一般的に湯船に浸かる等は問題ないんじゃないかなと思います。
着床って奥深いですね…!
ホントにその通りです!
妊娠は元々神の領域といわれていますので、着床の分野においてもまだまだ解明されていないことが多く、本当に奥深いです。
今回は、「着床」というテーマでお話をいろいろとお伺いできて、大変勉強になりました。松本院長、ありがとうございました!