前回の記事では、顕微授精と体外受精の違いと、顕微授精の一般的な流れについて解説しました。
この記事では、顕微授精での受精率や妊娠率、顕微授精での費用について解説していきます。
この記事の監修医師
産婦人科専門医 / 生殖医学会生殖専門医
順天堂大学医学部産婦人科客員准教授
順天堂大学医学部卒業。順天堂大学産婦人科先任准教授(助教授)、順天堂大学医学部附属浦安病院リプロダクションセンター長を歴任。世界初となる公費助成の「卵子凍結保存プロジェクト(千葉県浦安市)」の責任者。2019年メディカルパーク横浜を開院。
顕微授精での受精率はどれぐらい?
顕微授精とは精子を1匹選んで専用のピペットで卵子に精子を注入します。
精子がほとんどいないときや、精子の運動率が悪い時、凍結精子を利用した時や、体外受精をしても受精しなかった時などに顕微授精が行われます。
その為体外受精より受精率が高いイメージのある顕微授精ですが、いったいどれぐらい受精率があるのでしょうか?
顕微授精とピエゾICSIとの比較にはなりますが、ある論文では、
通常の顕微授精での受精率が70.1%、ピエゾICSIでの受精率が75.4%となっています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6780025/
またこちらの報告でも、
通常の顕微授精での受精率が68%、従来のピエゾICSIでの受精率が75%、改良されたピエゾICSIでの受精率が79%となっています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26489413/
このことから、顕微授精での受精率は7割から8割前後ぐらいと考えておくといいかと思います。
ただし、これらの数値は個々の年齢や精子の状態でも変わってきますし、クリニックによっても差が出てきます。
また顕微授精での日本での妊娠率は、顕微授精による胚移植あたりの妊娠率が19.9%、生産率(出産率)は14.2%となっています。
日本産婦人科学会(2018)
クリニックを選ぶ際や治療を選択する際には、通常の体外受精の妊娠率とともに顕微授精での受精率や妊娠率・出産率も気になるところです。
年齢や疾患など、患者背景が違うため単純に比較はできませんが、顕微授精での成績が気になる場合は、体外受精説明会などで、顕微授精での受精率や妊娠率を確認されるのも一つの方法です。
顕微授精、赤ちゃんへのリスクは?
顕微授精を選択される際に気になることの一つが、産まれてきた子供への影響です。
体外受精で産まれてきた子供への影響に関してはこちらの記事で解説しています。
この記事の中でも、
オーストラリアで1994年から2002年までに産まれた子供達(210,627人)に関して8年間、追跡調査が行われた結果では、体外受精で産まれた子供の方がわずかながら知的障害をもって生まれてくるリスクが増加した
Hansen, M., et al. (2018). “Intellectual Disability in Children Conceived Using Assisted Reproductive Technology.” Pediatrics 142(6).
と書かれています。
特に、非常に早いタイミングで産まれた子供や顕微授精で産まれた子供で知的障害をもって生まれてくるリスクが高くなると記載されています。
ただし、オーストラリアをはじめ多くの国では、複数の胚移植を同時に行っています。
そのため、双子や三つ子のリスクも高く、その結果、早産や低体重で産まれてくる子供も少なくありませんでした。
早産や低体重児は知的障害のリスクもあがるため、一概にすべての体外受精においてリスクがあがるとは言えません。
少しずつデータは集まってきてはいますが、まだまだ体外受精や顕微授精でのリスクははっきりしていない点も少なくありません。
その為特に受精に問題がないのであれば、むやみやたらに顕微授精を選択せずに、受精障害や男性不妊などがある時に必要に応じて顕微授精を選択していくという考え方も必要になってきます。
ただし、ここで注意してほしいのが、顕微授精を行った全ての子供がなんらかの障害や病気をもって産まれてくるわけではないということです。
そして、自然妊娠、不妊治療で授かったにかかわらず一定の割合で障害や病気をもって産まれてくる子供はいます。
わずかな確率に不安を感じて、必要以上に顕微授精を避けることはあまりお勧めできません。
ある論文では、
重度の男性不妊が原因で顕微授精を行った場合、産まれてきた男子の精液所見が自然妊娠で産まれてきた男子より良くなかった
Human Reproduction, Volume 31, Issue 12, 1 December 2016, Pages 2811–2820,
という調査報告もあります。
しかし、こちらの報告は対象人数が54人と少なく、父親の男性不妊が遺伝していることを確認出来ているわけではないことから、今後も継続して確認していく必要があり、現段階では結論付けることは出来ません。
重度な男性不妊因子で顕微授精を選択しなければならなく、産まれてくる子供への影響が気になる場合は、ネットで調べていてもなかなか確実な情報にはたどり着けません。
まずは通院されているクリニックで医師に確認されることをお勧めします。
顕微授精にかかる費用とは?
2022年の4月以降は不妊治療も保険が適用されるようになるため、幾分費用負担は軽減しますが、それでも高額な治療費が必要になるのが体外受精です。
特に顕微授精は体外受精にプラスして費用が発生します。
体外受精でかかる費用についてはこちらの記事で解説していますが、顕微授精の場合は、体外受精の項目にプラスして顕微授精の費用が発生します。
その為、大きく分けると以下の費用が発生することになります。
①排卵誘発にかかる費用
②採卵にかかる費用
③精子の処理にかかる費用
④受精、培養、凍結保存にかかる費用
⑤顕微授精の費用
⑥移植にかかる費用
⑦移植周期の薬代
顕微授精そのものにかかる費用もクリニックよって様々です。
顕微授精をした個数ごとに値段を設定しているクリニックもあれば、顕微授精の個数に関わらず一律で金額を設定しているクリニックもあります。
クリニックによっては、1個であれば3万 5個までであれば6万 10個までであれば10万というような価格設定を行っているクリニックもあります。
また、ICSIとIMSI(超高倍率で精子を選ぶ方法)で価格が変わってくるクリニックもあります。
顕微授精の平均価格としては、1個であれば3万~5万前後、一律金額であれば10万~20万弱ぐらいが都市部での一般的な価格になります。
この費用は、移植できる胚になってもならなくても顕微授精を行えばかかってくる費用になります。
体外受精で30万から70万前後、高い場合だと1回100万を超えることもあります。
顕微授精の場合は、さらにこの価格に10万から20万ぐらいプラスして考えておく必要があります。
クリニックを費用面だけで選ぶことはお勧めしませんが、採卵できた卵子すべてに顕微授精が必要で卵子がたくさん取れる人の場合は、顕微授精の費用も考慮しながらクリニック選択や治療回数を考えておく必要も出てきます。
いかがでしたでしょうか?
顕微授精をする際に気になる、受精率や妊娠率、顕微授精でのリスクや費用についてこの記事ではお伝えしました。
気になるとついついネットであれこれと調べてしまいがちですが、必ずしもネットに必要な情報があるとは限りません。気になることは治療をスタートさせる前に、まずはクリニックでしっかりと質問して納得してから治療をスタートさせるようにしましょう。