体外受精を考えた時に気になることが、“費用面” “身体への負担” そして“産まれてくる子供へのリスク”という人も多いのではないでしょうか?
この記事では体外受精で産まれてくる子供へのリスクについて解説していきます。
この記事の監修医師
産婦人科専門医 / 生殖医学会生殖専門医
順天堂大学医学部産婦人科客員准教授
順天堂大学医学部卒業。順天堂大学産婦人科先任准教授(助教授)、順天堂大学医学部附属浦安病院リプロダクションセンター長を歴任。世界初となる公費助成の「卵子凍結保存プロジェクト(千葉県浦安市)」の責任者。2019年メディカルパーク横浜を開院。
目次
体外受精で産まれてくる子供に心配されるリスクとは?
体外受精で妊娠・出産と聞くと、子供がなんらかのリスクを背負って産まれてくるのではないかと心配されるご夫婦も少なくありません。
多くの人が気になるリスクとしては、障害の有無、がんの発生率、疾病リスクの上昇、子どもの寿命、などがあがってきます。
体外受精での子供が初めて誕生したのは1978年です。
まだそれから40年余りしか経っていないため、体外受精で産まれた子供たちがどのように成長し、年齢を重ねていくのかはまだまだわかっていない部分も多くあり、現在もその結果を追っている状況です。
その為、子どもの寿命などに差が出るのかどうかや、40歳以上になってから発症しやすいがんや生活習慣病の発症リスクの差などは現時点ではわかっていません。
しかし、産まれもっての障害の有無や小児がんなどに関しては、海外のデータが中心ではありますが少しずつ体外受精で産まれた子供たちのその後の調査結果が出てきています。
この記事ではそれらの調査結果を紹介していきたいと思います。
体外受精児が知的障害をもって生まれてくる可能性
オーストラリアで1994年から2002年までに産まれた子供達(210 ,627人)に関して8年間、追跡調査が行われた結果では、体外受精で産まれた子供の方がわずかながら知的障害をもって生まれてくるリスクが増加したと書かれています。
Hansen, M., et al. (2018). “Intellectual Disability in Children Conceived Using Assisted Reproductive Technology.” Pediatrics 142(6).
特に、非常に早産な時期で産まれた子供や顕微授精で産まれた子供で知的障害をもって生まれてくるリスクが高くなると記載されています。
この結果だけを見ると、やはり体外受精、特に顕微授精はリスクが高いのではないかと不安に感じられる人もいるかもしれません。
ただし、オーストラリアをはじめ多くの国では、複数の胚移植を同時に行っています。
そのため、双子や三つ子のリスクも高く、その結果、早産や低体重で産まれてくる子供も少なくありませんでした。
早産や低体重児は知的障害のリスクもあがるため、一概にすべての体外受精においてリスクがあがるとは言えません。
この論文では、早産や低体重などの多胎リスクのある移植方法の変更と、必要な時(精子と卵子が自力では受精しない時)以外の顕微授精を制限することで、体外受精における知的障害をもって生まれてくるリスクを減らすようにすることが必要だと述べています。
体外受精児のがん発症リスクはあがる?
こちらも海外のデータにはなりますが、
オランダで1980年から2001年の間に不妊治療を受けた女性から産まれた子供たちを、約20年間追跡調査を行った結果、231名の子供ががんを発症しました。そのうち、体外受精で産まれた子供、自然妊娠で産まれた子供、体外受精以外の一般の不妊治療で産まれた子供、いずれも小児がんの発症率に差はなかったというデータが出ています。
Spaan, M., et al. (2019). “Risk of cancer in children and young adults conceived by assisted reproductive technology.” Hum Reprod.
ただし顕微授精の妊娠から産まれた子供の有意差(データ的な差)はないものの、わずかではあるががん発症リスクが上がるというデータが出ています。
顕微授精に関しては、引き続き長期の調査が必要であると記載されています。
こちらの論文からは、体外受精での小児がん発症リスクの増加を心配する必要がないことがわかります。
体外受精で産まれてきた子供は将来病気になりやすい?
体外受精で産まれてきた子供が、将来生活習慣病や糖尿病などの病気になりやすいのかどうかを心配される方もいます。
これらに関しては、冒頭でも書きましたようにまだ体外受精で最初の子供が誕生してから、40年ほどしか経過していませんので、現時点ではまだはっきりとしたことはわかっていません。
ただ、体外受精、自然妊娠に関係なく、低体重で産まれてきた子供は “高血圧、冠動脈疾患、Ⅱ型糖尿病、脳卒中、脂質異常、神経発達異常”のリスクがあがることが報告されています。
低体重で産まれてくる要因としては、まだまだ理由がはっきりとわかっていない点も多いですが、母体の要因、早産などの胎児の要因、胎盤のサイズや多胎妊娠などがあげられます。
“妊娠中に過度なダイエットは行わない”、“妊娠高血圧症候群にならないように注意する”、“妊娠中の喫煙をやめる”など、これらに気を付けることが低体重児の予防につながる事もわかってきています。
子供が障害をもって産まれてくるリスクと夫婦の年齢の関係
子どもが障害をもって生まれてくる原因には様々な要因が関与しており、一概に何かが原因であると言い切ることは出来ません。
ただし、男女ともに加齢は、染色体異常の発生や発達障害を持った子供が産まれてくる確率があがることがわかっています。
染色体異常に関しては、特に女性の年齢が大きく関与していることがわかっており、年齢別になんらかの染色体異常を持った子供が産まれてくる確率は以下のように言われています。
20歳 526人に1人
Hook EB(Obstetrics and Gynecology 58:282-285, 1981)Hook EB, Cross PK, Schreinemachers DM(Journal of the American Medical Association 249(15):2034-2038, 1983)
25歳 476人に1人
30歳 384人に1人
35歳 192人に1人
40歳 66人に1人
45歳 21人に1人
また、男性に関しても年齢があがるとともに、自閉症や発達障害をもった子供が産まれる割合が増えるという研究データもあります。
このように両親の年齢と障害の有無は大きな関係があります。
これは、自然妊娠で産まれた子供、体外受精で産まれた子供、関係なく発生します。
ただ日本の場合、ART治療周期数のグラフを見ると患者年齢のピークは40代前半にあるため、障害の有無に関して年齢的要因も大きく影響してくるのですが、体外受精で産まれた子供に障害を持った子供が多いという印象を持つ人も少なくありません。
体外受精をする、しないに関わらず40歳以上で妊娠を望む場合は、染色体異常による流産や、なんらかの障害をもって産まれてくる子供が増えるということを知ったうえで、妊活や不妊治療を始める必要があります。
また、妊娠後に出生前診断を受けるのも一つの選択肢かもしれません。
ただし、出生前診断で全ての障害の有無がわかるわけではないということは知っておいてください。
出生前診断を受ける場合は、事前にしっかりと夫婦でその後の方針について話し合っておくことも大切です。
また、出生前診断は認可されていないクリニックで受けることも可能ですが、ただ検査をして終わりというところもあります。
必ずきちんとフォロー体制の整った認可施設で受けるようにしましょう。認可施設は数も少ないですから、出生前診断を受けることを検討されているのであれば、妊娠前から出生前診断を受けられる病院を探しておかれることをお勧めします。
体外受精で障害や疾病のリスクをもって産まれてくるリスク
体外受精は医療の手を借りて、精子と卵子を身体の外に取り出して受精させてから体外に戻すという過程があるため、不自然なものと感じる人もいるでしょう。
その為、子供になんらかのリスクがあるのではないかと不安に感じる方もいます。
しかし、今まで解説してきたように子供がなんらかのリスクを抱えて産まれてくる要因は体外受精に限ったことではありません。
年齢的なものや、低体重などもそれらの要因の一つになりますし、偶発的に起こることもあります。
また将来的な疾病に関しては、産まれた後の生活習慣や環境も影響してきます。
体外受精などの生殖補助医療だけにそのようなリスクがあるわけではありません。
インターネットやSNSで調べれば、不安を感じるような情報がたくさん出てきます。
ただ、それらの情報を鵜呑みにして、体外受精へのステップアップを先延ばしにすることはあまりお勧めできません。
不安や疑問点がある場合はまずは医師や医療者に質問してみることをお勧めします。
診療時間内より、体外受精説明会などの方が質問しやすければ、そのような場で聞いてみてもいいかもしれませんね。
いかがでしたでしょうか?体外受精というと無事に健康な子供が産まれてくるのか、不安を感じられあれこれとネットで検索される方も少なくありません。
まだまだわかっていないことも多く、調べれば調べるほど不安を感じてしまう場合もありますので、あまり調べすぎないということもこの件に関しては大切な事かもしれません。