体外受精にステップアップする際、多くの人が気になるのが費用のことですよね。
この記事では、そんな体外受精にかかる費用について解説していきます。
この記事の監修医師
産婦人科専門医 / 生殖医学会生殖専門医
順天堂大学医学部産婦人科客員准教授
順天堂大学医学部卒業。順天堂大学産婦人科先任准教授(助教授)、順天堂大学医学部附属浦安病院リプロダクションセンター長を歴任。世界初となる公費助成の「卵子凍結保存プロジェクト(千葉県浦安市)」の責任者。2019年メディカルパーク横浜を開院。
目次
体外受精の費用、値段に差があるのはなぜ?
体外受精にかかる費用を、ネットで調べてみても様々な金額が示されており、今一つ参考にならないと感じた人も多いのではないでしょうか?
30万から70万前後、高い場合だと1回100万を超えたという情報をみかけることもあります。
なぜこのような差が出るのでしょうか?
その一つの理由が不妊治療は自由診療の為、値段設定が自由に出来るという点があります。
また、各クリニックによって治療方針が様々であり、それに伴い使用する薬や装置などが違うため、かかる費用も違ってきます。
それ以外にも、追加する検査でも費用が大きく変わってきますし、個々の卵巣の状態によって使用する薬の量も変わってきます。
例えば薬をまったく使わない自然周期採卵の場合、採卵できた1個を凍結保存せずに同じ周期に移植すれば、30万から40万ほどで体外受精が可能な場合もあります。
また、同じような治療方針でも地方より、都市部の方が高い傾向があります。
都市部で、高刺激で採卵を行い、様々な検査を追加した場合は100万を超えるクリニックも出てきます。
このように治療方針の違いや、似たような治療方針でも立地の違いや個々の状態で価格が変わってくることがあるため、体外受精1回にかかる費用は人によって様々であり、一概に〇〇円ですと提示することが出来ないのです。
クリニックの体外受精の料金表を比較する場合の注意点
とはいえ、治療をスタートさせる前に、おおよそでもいいから体外受精にかかる費用の目安を知っておきたいと思う人がほとんどでしょう。
また、クリニックを選ぶ際に費用でも比較したい人もいるかと思います。
最初から費用ありきの比較はお勧めしませんが、ある程度条件や候補が絞れて来たら、費用も比較条件の大切なポイントになります。
というのも、同じ検査なのにかかる費用が全然違うクリニックもあるからです。
それ以外にも、基本的な治療方針は近いのに、細々とした費用が加算されるクリニックとそうでないクリニックもあります。
体外受精は決して安い治療ではありませんから、しっかりとした技術があれば後は出来るだけ価格を抑えたいというのは当然だと思います。
ただ、クリニック同士の価格を比較する際はHPに記載されている金額を鵜呑みにするのは少し危険です。
Aクリニックは記載されている費用がBクリニックには記載されていない…なんてことがあり得るからです。
また、採卵できた卵子の数によって費用が変わるクリニックは多いですが、「〇〇円~」と採卵数の少ない個数で金額が表示されていることもありますので注意が必要です。
体外受精をするには何の費用がかかる?
ここからは、体外受精にかかる費用項目について解説していきます。
クリニックによって多少の違いはありますが、ここであげる項目は体外受精を行うための一般的な項目になります。
各クリニックのHPや体外受精説明会等でもらう資料にこれらの項目に該当する費用があるかどうか確認してみてください。
もし、該当費用がなければ、どこかにセット費用として組み込まれているか、もしくは後々別途必要になる可能性が高くなります。
細かな金額まではっきりさせておきたい場合は、受付などで確認してみるといいでしょう。
体外受精の費用は大きくわけると、
①排卵誘発にかかる費用
②採卵にかかる費用
③精子の処理にかかる費用
④受精、培養、凍結保存にかかる費用
⑤移植にかかる費用
⑥移植周期の薬代 の6つにわけることが出来ます。
さらにその中でも細かく費用が分かれます。クリニックの費用を確認する際は次にあげる費用がどのように記載されているか確認してみるといいかと思います。
①排卵誘発にかかる費用
排卵誘発の時に必要な費用は、薬代(点鼻薬・内服薬・注射)や血液検査の費用、超音波エコーの費用になります。
それ以外にも、自己注射指導費や自己注射の消耗品代が別途必要になるクリニックもあります。
治療方針や個々の状況によって使用する薬の量が異なるため、個々の費用差が一番出やすいところになります。個々の差が大きいため、クリニックによっては排卵誘発にかかる費用がHPにまったく記載されていない場合もあるので、費用を確認する際は注意が必要です。
②採卵にかかる費用
採卵にかかる費用は、麻酔費用と採卵の手技費用が主な費用になります。採卵は一律の費用で行っているクリニックもあれば、採卵できる卵子の個数によって費用が加算される場合もあります。
排卵誘発方法が高刺激の場合は、10個以上採卵できた条件でシミュレーションしておく方が現実に近い費用になるかと思います。
③精子の処理にかかる費用
この項目に関してはHPに記載されていないクリニックが結構あります。
受精の過程の費用に含まれているのか、それとも別で費用として挙がってくるのかはクリニックによって変わってきますので、気になる場合は事前に確認しておきましょう。
④受精、培養、凍結保存にかかる費用
受精方法の違い(媒精 顕微授精 スプリット レスキューICSIなど)や培養方法のオプションの追加、採卵できた卵子の個数によって価格が大きく変わってくる項目になります。
また、初期胚までの培養か胚盤胞までの培養かによっても価格が変わってくるクリニックもあります。オプションを追加するごとに数万単位で費用が上がっていきますので注意が必要です。
凍結保存も1回採卵分をまとめて保存する費用なのか、個数によって費用が変わるのかによっても合計費用に大きな差が出てきます。
クリニックによっては受精卵1個ごとに凍結保存費用が加算されるクリニックもあります。
特に、凍結保存は2人目、3人目を考えて保存する場合は3年や5年の保管費用が必要になってきますので、何年ぐらい保管するのかも考えて費用を計算する必要があります。
⑤移植にかかる費用
移植も培養同様にオプション項目(2段階胚移植 SEET法など)が多い治療過程の一つです。オプションを追加すると数万単位で費用が上がることになります。
⑥移植周期の薬代
ホルモン補充周期で移植した場合は、移植周期も薬代が発生してきます。排卵誘発費用同様、クリニックのHPにはあまり細かく記載されていませんので、ホルモン補充周期で移植を考えている場合は、あらかじめかかる費用として考えておく必要があります。
上記の6つ以外にも、再診料や妊娠判定の費用なども発生してきます。
各クリニックの体外受精の費用を見る際の注意点
上で書いたように、体外受精の費用シミュレーションは大変複雑で、実際のところ治療をスタートさせてみないといくら費用がかかるのかわからないのが正直なところです。
その為、クリニックによっては様々なパターンを想定して費用事例をあげているHPもあります。
ただ、この費用事例を鵜呑みにはしないでください。
薬代、検査代、超音波エコーの診療費がまったく含まれていなかったり、少ない採卵個数で見積もっていたり、凍結費用が含まれていなかったり、中には採卵、凍結保存で終了して、移植費用が入っていないシミュレーションもあります。
また、凍結した受精卵は1年目の保存費用しか含まれていないシミュレーションがほとんどです。
もちろん、非常に細かくシミュレーションされているクリニックもありますが、多くのクリニックは、実際にかかる費用より安く見積もられて記載されています。
治療費用の総額が知りたい場合は、少し手間ですが自分で実際に項目と費用を書き出して、シミュレーションしながら計算していくのが一番確実です。
1回の治療費は安くても治療費総額が高くなることも
クリニックごとで体外受精の費用を比較すると、かなり大きな費用差があることに気づかれる方もいらっしゃるでしょう。
中には、少しでも費用を安く抑えたいと1回の治療費が安いクリニックを選ばれる方もいます。
しかし、1回の治療費は安くても総額でみればほとんど変わらない、もしくは高くなってしまう場合もあるので注意が必要です。
体外受精で費用に差がでる主な原因が、①薬代(排卵誘発剤 移植後の薬など)②採卵数による加算費用 ③様々なオプション費用 の3つになります。
その為、排卵誘発剤をほとんど使わない、もしくは内服薬のみで1個~3個程度採卵した場合と、注射などで高刺激の排卵誘発を行い10個以上採卵した場合では、1回の治療費に大きな差が出てきます。
ただ、高刺激の誘発で多くの卵子が凍結保存できた場合、1回目の移植で妊娠に至らなくても、凍結保存している卵子を移植することが出来るため、2回目以降、排卵誘発、採卵、受精、培養に関する費用が必要なく、かかる費用は融解費用と移植以降の費用のみになります。
採卵できた卵子が少ないと、1回目の移植で妊娠に至らなかった場合に再度採卵からのスタートになることが多く、最初から費用が発生することになります。
それを何度か繰り返しているうちに、体外受精の総額が高くなってしまったなんてことも起こりえます。
体外受精にかかる総額は?いくら準備しておけばいい?
体外受精にかかる費用は、いままで説明してきたように治療方針によって大きく変わってきます。その為、どれぐらい費用がかかるかは明言できないのですが、1回の治療費にまずは60万から100万ぐらいは最低でも用意しておいた方がいいでしょう。
総額としては、体外受精の治療費の平均費用が190万以上(妊活ボイスより)というデータもありますので、まずは手元に200万~300万ほど治療費として用意しておけるといいかと思います。
体外受精には助成金制度がありますが、助成金申請のタイミングは治療が終了してからになります。そのため、まずは個人が全額クリニックに支払う必要があることも覚えておいてください。
体外受精にかかる費用の話、いかがでしたでしょうか?
体外受精をスタートさせてから、自分達が思っていた以上の費用が必要になって慌ててしまう方も少なくありません。事前にしっかりとかかる費用の目安を調べてから、体外受精に進むようにされてみてはいかがでしょうか。