2012年にあるテレビ番組で特集された「卵子の老化」。
当時、この言葉は妊娠適齢期の女性の中で衝撃が走りました。
その頃はまだネットがここまで普及しておらず、妊活や不妊治療の情報が今ほど多くありませんでした。
少しずつ、妊活や不妊治療という言葉が一般にも浸透し始めてきた頃だったように思います。
この記事の監修医師
産婦人科専門医 / 生殖医学会生殖専門医
順天堂大学医学部産婦人科客員准教授
順天堂大学医学部卒業。順天堂大学産婦人科先任准教授(助教授)、順天堂大学医学部附属浦安病院リプロダクションセンター長を歴任。世界初となる公費助成の「卵子凍結保存プロジェクト(千葉県浦安市)」の責任者。2019年メディカルパーク横浜を開院。
目次
「不妊症」になる可能性は誰にでもある
不妊治療や不妊検査に行ったことのあるカップルは、2012年当時でも6組に1組いたと言われています。不妊で悩むカップルの数は今とたいして変わらなかったのです。
それでもあまり妊活や不妊治療が知られていなかったのは、多くの人がコッソリと不妊クリニックに通っていたからです。
だからこそ、「不妊は他人事、自分には関係ない」そう考えていた人もたくさんいたのです。
また、テレビでは40代の芸能人女性の妊娠や出産のニュースが度々取り上げられていました。そんなこともあって、男女とも40代になっても生理があれば妊娠できると思っている人も少なくありませんでした。
そんな時に出てきた「卵子の老化」という言葉。
この言葉が広く知れ渡ると同時に、多くの女性は早い段階で妊娠や不妊治療を考えるようになってきました。
とはいえ、この「卵子の老化」という言葉のとらえ方にはまだまだ差があるように感じています。
不妊治療をすれば40代でも妊娠できると思っている方もまだまだいます。
2人目や3人目を望んでいるがなかなか妊娠しない…というご相談では、「卵子の老化」や「精子の老化」が抜け落ちてしまっていることもあります。
卵子は減り続けるだけ。増えることは絶対にない
卵子は胎児期が一番多く、その後は増えることなく減り続けます。
卵子の数は胎児期の20週の頃が一番多く、卵巣の中に600万個~700万個ほど持っています。
これらの卵子の数は生まれてくるときには200万個まで減少します。
その後も減少は止まることがなく、思春期には30万個~50万個まで減少し、37歳ぐらいには2万個まで減ることになります。
最終的に閉経時には1000個ほどになると言われています。
毎月の排卵は1個ずつですが、それ以外にも毎月1回の排卵時に約1000個の卵子が消失していっているのです。
卵子は、年齢を重ねるのと一緒に歳を重ねていく事になります。
どれだけ、見た目が若々しくても、気持ちを若く保っていても、身体の機能は年齢とともに衰えてきます。そしてその老化は卵子も同じなのです。
そして、卵子の減少とともに質も衰えていくことになります。
卵子の老化は生まれた時から始まっている
卵子の老化の話をすると、「30代は大丈夫、40代に入ってからの話だろう」と思っている人もいます。
しかし、卵子の老化は40代に入って突然始まるわけではありません。
妊娠のしやすさは32歳ぐらいまでは緩やかな下降ですが、33歳を過ぎると下降スピードが速くなり、さらに37歳を過ぎるとより急激に下降していきます。
卵子の質の低下(染色体数の異常)に関しては、35歳頃から染色体異常の割合が増加してくると言われています。
こちらは体外受精での数値になりますが、32歳までは20%以上あった出産率が、33歳では20%を下回り、37歳では15%まで下がります。
その後も出産率は下がり続け、40歳では10%を下回ります。
出産率は下がる一方で、流産率に関しては35歳では10%強であったものが、40歳になると20%近い数値になり、その後も上がり続け、45歳を過ぎると35%を超えてきます。
「卵子の老化」という言葉は広く知れ渡りましたが、まだまだ30代後半、40代の話だと思っている人も少なくありません。
特に、女性より男性にその傾向があるように感じます。
不妊の定義は、”妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、1年間妊娠しないもの”を指しますが、1年間自己流の妊活を続けてもいいのは35歳ぐらいまでです。
妊娠率の低下を考えると、35歳を過ぎているのであれば自己流の妊活は半年ほどにとどめておくことをお勧めします。
男性が不妊検査や不妊治療にあまり乗り気でない場合は、年齢とともに卵子も精子も老化すること、そしてそれらは40代の話ではなくて、35歳ぐらいから意識しておかないといけないという事を伝えましょう。
卵子の老化は、妊娠率の低下や流産率の増加につながります。
キャリアや結婚のタイミングなどを考えると簡単な問題ではありませんが、産めるのであれば20代の間に妊娠・出産したほうがいいと言われるのにはそういう背景があるのです。
多くの人が勘違い?卵子の老化は不妊治療でも解決できない
不妊治療をすれば40歳を過ぎていても容易く妊娠できるのではないかと思っている人は実は少なくありません。
しかし上記でも書きましたが、40歳以上の不妊治療での出産率は10%未満です。
その後も出産率は下がり続け、43歳では5%前後まで下がります。
もちろん、この出産率はクリニックによって多少変動するでしょうが、それでも低い数値であることには変わりありません。
一旦老化してしまった卵子は不妊治療の技術をもってもどうしようもすることはできないのです。
そればかりか、そもそもの採卵自体も難しくなっていきます。
20代後半や30代前半であれば10個以上採卵できた卵子も、30代後半や40代に入ると採卵できる数が減少していくのと同時に、採卵できてもうまく受精できなかったり、受精してもうまく分割できなかったりなど、胚移植にたどり着くまでのハードルがあがることになります。
これは年齢とともに、卵子の質が低下していたり、卵子の残りの数そのものが少なくなっているのが原因です。
卵子の若返りを謳ったサプリメントや食事療法や施術などの広告を見かけますが、現時点では卵子を若返らせることはできません。
一部、卵巣から採取したミトコンドリアを卵子に移植する研究などが行われていますが、こちらもまだまだ研究段階のレベルです。
特にこの研究が話題になってから、「ミトコンドリア」をキーワードとした高額なサプリメントを見かけることがありますが、ミトコンドリア移植はサプリメントでの研究結果ではありませんのでそのような商品には手を出さないように注意が必要です。
「卵子の若返り」を売りにした様々な商品が出回っていますが、これらには残念ながら根拠はありません。
卵子の老化は今の現代医学ではどうしようもできないものなのです。
あくまでも今できることは、これ以上卵子の質を落とさないことです。
その為にも、たばこを吸う習慣のある人は1日でも早く禁煙をするようにしましょう。
また、ごくごく当たり前のことになりますが、規則正しくバランスの取れた食事をとる事、しっかりと睡眠をとることなどが卵子にとっても大切になってきます。
また、やせすぎや太りすぎも卵子の質を低下させる要因になりますので、適正体重を維持するように心がけましょう。
2人目・3人目不妊の原因は、卵子と精子の老化?
1人目や2人目はそんなに悩むことなく妊娠できたのに、2人目、3人目でなかなか妊娠できずに悩んでいる人も少なくありません。
そんな場合に考えられる原因の一つが卵子や精子の老化になります。
今まで不妊で悩んだことのない場合、自分は不妊とは無縁だと思いがちですが実はそうではありません。
例えば35歳で第1子を妊娠・出産した場合、第2子を考えるときには、早くても36歳や37歳になっています。
妊娠率が一気に下がる年齢に差し掛かっているのです。
30代前半で第1子を出産した場合、しばらく子育てが落ち着いてから第2子をと考えると、気づけば妊娠しにくい年齢になってしまっていることもあります。
また1人目をスムーズに妊娠している場合、2人目もすぐに授かるだろうと考えてしまい、自己流の妊活を長く続けてしまっている場合もあります。
例え、一人目をスムーズに妊娠できても年齢とともに誰もが妊娠しにくくなります。
子どもを2人、3人と望んでいる場合は、年齢とともに妊娠率が低下することを頭に入れてライフプランを考えておく必要があります。
また2人目以降をなかなか妊娠できない場合、不妊治療を選択するのかどうか、一人っ子も視野に入れて自然に任せるのかどうかもあらかじめ夫婦で話し合っておくことも大切です。
残念ながら卵子を若返らせる魔法の技術は存在しません。
だからこそ、年齢とともに卵子も精子も老化し、妊娠しにくくなることを知った上でライフプランを考えることが大切になってきます。
参考資料:
公益社団法人 日本産婦人科医会
産婦人科学会 2017年ART治療の年齢別成績結果