妊活や不妊治療を始めると、“妊娠率”という言葉を見ない日がないのではないかというぐらいにあちこちで見かけますよね。
でも、その”妊娠率”の見方をきちんと理解していますか?
今回は、各クリニックが出している「妊娠成績」を見る時に気を付けなければならないポイントと体外受精での妊娠率について解説していきます。
この記事の監修医師
産婦人科専門医 / 生殖医学会生殖専門医
順天堂大学医学部産婦人科客員准教授
順天堂大学医学部卒業。順天堂大学産婦人科先任准教授(助教授)、順天堂大学医学部附属浦安病院リプロダクションセンター長を歴任。世界初となる公費助成の「卵子凍結保存プロジェクト(千葉県浦安市)」の責任者。2019年メディカルパーク横浜を開院。
目次
不妊クリニックの「体外受精の治療成績」を見る時に気を付けたいポイント
年齢別や治療別での妊娠率のお話をする前に、まずは“妊娠率の見方“について解説していきたいと思います。
クリニックによってはHPに妊娠成績一覧として妊娠率が開示されているところもあります。
HPに掲載されている妊娠成績の掲載の仕方には、実は決まったルールがありません。
その為、どのような患者数を分母とするのか、分子とするのかで見え方が大きく変わってきます。
例えば、「Aクリニックは妊娠率45%」、「Bクリニックは妊娠率22%」と記載されていると、ぱっと見るとAクリニックの方が妊娠率が高くみえますよね。
しかし、一概にAクリニックの妊娠率の方が高いとは言い切れないのです。
これが統計の”からくり”になります。
なぜこのような事が起こるのか、具体的に説明していきます。
基本的に妊娠率は、「妊娠率=妊娠した患者÷治療した患者×100」で計算することが出来ます。
≪からくり①分母の違い≫
まず分母の“治療した患者”ですが、これを”総治療数”か”胚移植数“かどちらに設定するかによって大きく変わってきます。
「総治療数」の場合は、採卵できなかった人、受精しなかった人、受精卵が分割しなかった人も含まれます。
しかし、分母が「胚移植数」になると、胚移植にたどり着けなかった人は含まれないことになります。つまり、移植までたどり着くことが出来なかったものは、統計上は存在しなかったことになってしまうのです。
そしてクリニックによっては、初期胚では移植しない場合や、胚盤胞でもグレードの高いものしか移植しないという独自のルールがあるところもあります。
胚盤胞がたくさんできる人の場合であれば、胚移植数を分母として妊娠率もある程度参考になるでしょうが、そもそも採卵できない・分割しないなど、胚移植にたどり着けない人の場合は、どれだけ胚移植からの妊娠率が高いクリニックを選んでも参考にならない場合があるので注意が必要です。
≪からくり②分子の違い≫
分子の場合も、「妊娠した患者数」を“血液検査による判定”なのか“胎嚢確認”による判定なのか“心拍確認”による判定なのか、どのタイミングで妊娠と判断するかによって統計の数値が変わってきます。
特に血液検査による判定の場合は、移植後何日目の判定かという点も影響してきます。
クリニックのHPにはどのタイミングで判定した患者数なのかを記載する義務はないため、各クリニックでの妊娠率を比較する際は、分子の基準もきちんと確認する必要があります。
それ以外にも患者年齢層や基礎疾患の有無、男性不妊の有無などによっても“妊娠率”の見え方は変わってきます。
クリニック選びの際は妊娠率に注目しがちですが、各クリニックが掲載している数値の出し方(基準)が違うため、あくまでもクリニックが公表している妊娠率は参考程度に見ておくのがいいかと思います。
体外受精で赤ちゃんを授かれる確率は?
ここからは不妊治療全体の妊娠率について説明していきたいと思います。
2018年の日本産科婦人科学会の集計によると体外受精での妊娠率は以下のようになっています。
【30歳】
治療開始あたりの生産率* 21.6%
治療開始あたりの妊娠率 27.8%
胚移植あたりの妊娠率 44.5%
【35歳】
治療開始あたりの生産率 18.6%
治療開始あたりの妊娠率 25.0%
胚移植あたりの妊娠率 40.4%
【40歳】
治療開始あたりの生産率 9.5%
治療開始あたりの妊娠率 15.1%
胚移植あたりの妊娠率 27.7%
【45歳】
治療開始あたりの生産率 1.1%
治療開始あたりの妊娠率 3.2%
胚移植あたりの妊娠率 8.0%
(*生産率=出産に至った割合)
初期胚、もしくは胚盤胞まで成長すれば妊娠率はあがりますが、治療開始(採卵)あたりからの妊娠率の場合は、30歳でも30%未満であり、40歳になると15%まで低下します。
これが、妊娠を継続し出産に至るまでの割合(治療開始あたりの生産率)となると、さらに低下することになります。
体外受精をすれば妊娠できると思われる方も少なくありませんが、実は体外受精での妊娠・出産率は思っているほど高くはありません。
体外受精の妊娠率も、自然妊娠の妊娠率と同様に年齢とともに低下していきます。体外受精へのステップアップを早めにすすめるのにはこういった理由があります。
初期胚移植と胚盤胞移植ではどちらの妊娠率が高い?
「初期胚移植と胚盤胞移植、どちらの妊娠率が高いですか?」というのもよく聞かれる質問の一つです。
初期胚移植と胚盤胞移植の妊娠率を単純に比較した場合、胚盤胞移植の妊娠率の方が高くなります。
しかし、それは受精卵が“胚盤胞まで成長した”というステップをすでにクリアしている影響があります。
受精卵が胚盤胞まで成長できる場合はいいのですが、なかなか胚盤胞にならないという場合は、胚盤胞移植にこだわるのではなく、初期胚移植に関して医師に相談してみてもいいかもしれません。
胚盤胞移植では何度移植しても妊娠しなかった方が、初期胚移植で妊娠出来たという場合もあります。
統計の数値はあくまでも参考です。胚盤胞移植の妊娠率の方が高いからと、胚盤胞移植にこだわりすぎると妊娠のチャンスを逃してしまう可能性もあるので注意が必要です。
新鮮胚移植と凍結胚移植で妊娠率は変わる?どちらの妊娠率が高い?
日本の場合、新鮮胚移植ではなく凍結胚移植が主流となって行われており、妊娠率も凍結胚移植の方が優位に高くなっています。
凍結胚移植の妊娠率が高い要因としては、
・新鮮胚移植は排卵誘発剤の影響を受けるが、凍結胚移植は排卵誘発剤の影響を受けない
・凍結融解方法の技術が高いため、胚のダメージがほとんどない
・胚盤胞の段階で凍結することで、可能性の高い胚だけを選別することが出来る
と言われています。
実際に2018年のデータにおいても、凍結胚移植での妊娠率が35%程度、新鮮胚移植での妊娠率が20%程度となっています。
ただし、これらの数値はあくまでも移植あたりの妊娠率であり、治療周期あたりの妊娠率ではない点に関して、注意が必要です。
ちなみに、凍結胚移植の妊娠率がここまで高いのは日本だけであり、アメリカは今でも新鮮胚移植が主流となっています。
体外受精、何回すれば妊娠する?
体外受精を続ければいつか妊娠できるのではないか?と、5回以上、10回以上と体外受精を続ける人もいます。
しかし、各クリニックが掲載しているデータをみると、体外受精は最初の4回で7割近い方が妊娠していきます。その後の妊娠率の増加は緩やかになっていきます。
これらのデータのことを“累積妊娠率”と言います。
この累積妊娠率をみることで、そのクリニックでは何回目の体外受精で何割の人が妊娠しているのかがわかります。
いつまで体外受精を続ければいいのかわからないという場合は、この“累積妊娠率”を参考に考えるのも一つの方法です。
いかがでしたか?妊娠率と一言で言っても、妊娠の判断基準や治療数は採卵からなのか?移植からなのか?や患者年齢などの患者背景の違いによって、妊娠率の見え方は変わってきます。
妊娠率はクリニックを選ぶ際の大切な判断ポイントですが、どのような数値を使っているのかを知ったうえで見ることが大切になってきます。また、妊娠率が高いからと言って必ずしも自分にあう方法だとは限らないこともあります。
“妊娠率”と言う数値に振り回されすぎずに賢く付き合っていきましょう。