私たちが妊娠するためには様々な要因が複雑に絡み合っています。
何か一つクリアすれば妊娠できるわけではありません。いくつもの過程をクリアしてようやく妊娠にたどり着くことが出来ます。
今回はそんな妊娠に至るまでの過程について説明していきたいと思います。
この記事の監修医師
産婦人科専門医 / 生殖医学会生殖専門医
順天堂大学医学部産婦人科客員准教授
順天堂大学医学部卒業。順天堂大学産婦人科先任准教授(助教授)、順天堂大学医学部附属浦安病院リプロダクションセンター長を歴任。世界初となる公費助成の「卵子凍結保存プロジェクト(千葉県浦安市)」の責任者。2019年メディカルパーク横浜を開院。
目次
妊娠成立のための5つの過程
妊娠が成立するためには、大きく分けると5つの過程があります。
①排卵までの過程
②受精の過程
③分割の過程
④卵管通過の過程
⑤着床の過程
です。
①排卵までの過程 卵子の成長から排卵まで
まずは、排卵がきちんと行われていないと、妊娠に向けてスタートできません。
卵子は胎児期の時に最も多く、その後は増えることはなく、減少し続けます。
胎児期に出来た卵子は、産まれてくるまでに一次卵母細胞と呼ばれる細胞になり、その後思春期までの間は分裂を停止して、初経が始まるまでしばらくの間は休んでいることになります。
思春期になると、停止していた卵子(一次卵母細胞)の分裂が再開し排卵が起きて生理が始まります。
この卵子(一次卵母細胞)は卵胞上皮細胞と呼ばれるものに囲まれており、これを原子卵胞といいます。
この原子卵胞が14日ほどかけて成熟卵胞まで成長し排卵します。
そして、この卵胞の成長に関わるのがホルモンです。
卵胞の成長から排卵にかけては、脳や卵巣から分泌されるホルモンが関与しており、これらのホルモンがうまく分泌されないと、卵胞が成長しなかったり、排卵が起こらなかったりします。
胎児期から卵巣内に持って生まれてくる卵子ですが、それが単純に排卵するのではなく、その後成熟して排卵するまでには様々なホルモンの影響を受けることになります。
そしてそれらのホルモンがうまく分泌されないと排卵障害が起こる原因になってしまいます。
ホルモン分泌が乱れて排卵がうまく起こらないのには様々な原因がありますが、肥満や痩せすぎ、ストレスや生活習慣の乱れなどが原因で排卵障害が起こる場合もあります。
月経周期が短すぎる場合や、長すぎる場合は排卵がうまく行われていない可能性があります。
それ以外にも多嚢胞性卵巣症候群や下垂体の異常により排卵がうまく行われないこともあります。
まずは規則正しく排卵していることが妊娠への第1歩となります。
排卵については、こちらの記事に詳しく解説してますのでぜひご覧ください。
②受精の過程 精子との出会い・受精
排卵の次に待っている過程が、精子との出会いです。
排卵によって、卵巣から放出された卵子は卵管采と呼ばれる部分にキャッチされます。
この卵管采でうまくキャッチされないことをピックアップ障害とも言われますが、これらは検査ではわからなく、あくまでも可能性の一つだと言われています。
卵管采でキャッチされた卵子は、卵管膨大部で成熟卵子となり、卵管内を通ってきた精子と出会い受精します。
しかし、精子にも卵子にも寿命があります。
一般的に、精子の女性の体内での寿命は72時間、排卵された卵子の寿命は24時間と言われています。
この期間の間に精子と卵子が出会い、受精しないといけません。
これがいわゆる性交渉のタイミングと呼ばれるものです。
排卵日2日前の性交渉が一番妊娠しやすいといわれており、排卵と性交渉のタイミングがずれていると、どれだけ頑張って性交渉の回数を増やしても妊娠に至りません。
また精子が卵管膨大部に到達するのは簡単ではありません。
射精された精子の約90%は膣内で死滅してしまいます。生き残った精子が、外子宮口から、子宮頚管に至り、頸管粘液内に進入していく事になります。
その為、射精された精液の中にはたくさんの精子が必要なのです。
子宮頚管を通過した精子は子宮腔を通過して、卵管に向かいます。
卵管通過時にさらに精子は減少し、ようやく卵子と出会うことが出来ます。
排卵期の頸管粘液は粘稠性が低下しているため、精子は容易に通過できますが、排卵期以外の通過は容易ではありません。
また、まれにですが女性が精子を攻撃する抗体(抗精子抗体)を持つことがあります。
この抗体があると、精子の運動能力や受精の為の機能が低下してしまうことがあります。
人工授精で解決できる場合もありますが、場合によっては体外受精や顕微授精が必要になる場合もあります。
この抗体を持っているかどうかは血液検査でわかります。
この抗体を持っていた場合は、医師と相談しながら治療方針を決めていく事になります。
このように、いくつもの障壁を乗り越えてようやく受精の段階にたどり着くことになります。
③分割の過程 受精から分割
精子は射精直後には受精能を持ちませんが、卵管に移行する間に受精能を獲得します。
受精能を獲得した精子は、様々な過程を経て卵子へ進入していきます。
そして、一つの精子が進入すると、他の精子は進入できなくなります。
通常はこのように精子と卵子が受精を行うのですが、不妊の原因の一つに受精障害があります。精子と卵子の受精が上手く行われずに、受精卵になりません。
これらは検査ではわからず、体外受精をして初めてわかります。
受精障害がある場合は、顕微授精を行うことになります。
精子が卵子に進入し、受精したことで、今まで停止していた卵子の分裂が再開されます。
受精卵は卵管内を輸送される間に分裂を繰り返していきます。
2細胞期→4細胞期→8細胞期→桑実胚→胚盤胞となっていき、受精から4日目の終わりごろには胚盤胞は透明帯から脱出し6日目には着床を開始します。
しかし、すべての受精卵がこのように分割し着床まで行くわけではありません。
途中で分割が止まってしまうこともあります。
④卵管通過の過程
精子が卵子に出会うためには卵管を通過しなければなりません。
また、受精卵が着床するためには、卵管を通って子宮に戻らなければなりません。
この過程の卵管が閉塞していたり、狭窄していると、精子や卵子がうまく移動できずに妊娠が成り立ちません。
また、クラミジアや淋菌感染により卵管炎を起こしていると、受精卵がうまく移送されず、子宮以外の場所で着床してしまうことも起こりえます。
子宮以外の場所で着床した場合は妊娠の継続は困難であり、治療が必要になります。
クラミジアや淋菌感染以外にも、子宮内膜症が原因で卵管が閉塞したり、狭窄していることもあります。
卵管が通っていることは自然妊娠にとって必須の条件となります。
卵管になんらかの問題がある場合は、自然妊娠やタイミング治療、人工授精での妊娠は難しくなり、体外受精を行うことになります。
年齢にもよりますが、「半年から1年」妊活を続けていても妊娠しない場合は、この卵管閉塞や狭窄を疑って、卵管造影検査を受けてみることをお勧めします。
⑤着床の過程
胚盤胞まで分割しながら子宮に到達した受精卵は、子宮壁に接着し、その後数日かけて子宮内膜の層内に埋没していきます。これらの過程を着床と呼びます。
着床はいつでも可能なものではなく、子宮内膜には一定の胚受容可能期間が存在し、その期間内に着床する必要があります。
このタイミングがずれてしまうと着床は困難になります。
着床を妨げる子宮側の因子として、子宮内膜ポリープや、粘膜下筋腫、子宮内腔癒着など子宮の器質的な異常や、子宮内膜炎、子宮内膜菲薄化、子宮内細菌叢の異常などがあります。
また、それ以外にも受精卵になんらかの異常があって着床しない場合や、免疫的な要因やホルモンの問題など、様々な要因が受精卵の着床にかかわってきます。
妊娠成立に精子の状態はどう影響する?
今までは女性の身体の中で起こる妊娠の過程についてお伝えしてきましたが、妊娠に関わる大きな要素の一つに、“精子”があります。
不妊の原因の約半分は男性側にあるとも言われており、精子の状態が妊娠成立には大きく影響してきます。
精子の数や運動率、正常形態率などが妊娠に影響を及ぼすことになります。
これらの数や割合があまりに少なかったり、低い場合は自然妊娠が難しく、人工授精や体外受精、顕微授精などが必要になってきます。
また、見た目は正常であっても、DNAに損傷をきたしている精子なども妊娠に影響を及ぼしてきます。
妊娠には年齢による影響も大きい
卵子や精子の老化が影響し、男性、女性ともに年齢とともに妊孕力が低下してきます。
その為、検査では特に問題がなくても、年齢とともに妊娠しづらくなってきます。
女性の場合は、32歳を超えたあたりから徐々に妊孕力の低下が始まります。男性の場合は、年齢に幅はありますが、35歳~45歳の間で妊孕性の低下がはじまると言われています。
今回お伝えした過程をすべてクリアして初めて妊娠が成立します。この妊娠の過程のどこか一つでも問題があったり、精子の状態が悪かったりすると妊娠に至りません。
そこにプラスして年齢の影響も出てきます。
「あなたが妊娠できない理由は〇〇です。」と言い切れないのは、このような複雑な過程を経て妊娠に至るからです。
そして、不妊の原因は必ずしも一つとは限らなかったりもします。複数の原因が関与している場合も少なくありません。
年齢にもよりますが、半年から1年経ってもなかなか妊娠に至らない場合は、夫婦でしっかりと不妊検査を受けることが必要になってきます。
参考:
一般社団法人生殖医学会
今すぐ知りたい!不妊治療Q&A 基礎理論からDection Makingに必要なエビデンスまで 第1版 (医学書院)
カラー図解 人体の正常構造と機能 VI 生殖器 第3版 (日本医事新報社)