妊活や不妊治療について調べだすと、必ずと言ってもいいぐらいに目にする「AMH」という言葉。一体何なのでしょうか?何のために測定するのでしょうか?今回は「AMH」についてお伝えしたいと思います。
この記事の監修医師
産婦人科専門医 / 生殖医学会生殖専門医
順天堂大学医学部産婦人科客員准教授
順天堂大学医学部卒業。順天堂大学産婦人科先任准教授(助教授)、順天堂大学医学部附属浦安病院リプロダクションセンター長を歴任。世界初となる公費助成の「卵子凍結保存プロジェクト(千葉県浦安市)」の責任者。2019年メディカルパーク横浜を開院。
AMHとは?
AMHとは、抗ミュラー管ホルモン(またはアンチミューラリアンホルモン)の略で、前胞状卵胞という発育途中の卵胞の顆粒膜細胞から分泌されます。
卵巣内の卵子数を反映し、年齢とともに数値が減少していきます。
その為、卵巣内にどれだけ卵子が残っているのかの目安になり、ここ数年は、卵巣予備能を図る一つの目安として話題になっています。
ただし、AMHはあくまでも卵子の残りの数を知るものであり、卵子の質を表すものではないという事を知っておく必要があります。
AMHの値が低い、もしくはゼロに近くても、20代、30代であれば妊娠・出産される方はそれなりにいらっしゃいます。
AMHはどこで測定できるの?
AMHは月経周期内での変動が少ないため、生理直後や排卵直後など検査タイミングの指定はなく、どのタイミングでも検査ができます。
AMHの値の測定は血液検査で行いますので、病院で検査を受ける場合は他の不妊検査項目と一緒に検査をすることがほとんどです。
AMHの検査は不妊クリニックや婦人科で受けることが出来ます。
ただ、不妊クリニックや婦人科であればどこでもこの検査が受けられるとは限らないため、AMHの検査が受けたい場合は事前に病院やクリニックのHPや電話で確認しておくことが必要です。
また、これから結婚する、これから妊活を始めるから、不妊治療までは考えていないけどAMHの値が知りたい場合は、ブライダルチェックや女性向け項目のある人間ドックを受けるのも一つの選択肢です。
少し費用はかかりますが、AMHの値以外にも感染症のチェックや甲状腺ホルモンの値、子宮や卵巣の状態を確認してくれます。
病院やクリニックによって検査項目が様々ですので、事前に確認してから病院やクリニックを受診しましょう。
AMHを測定した場合にかかる費用は、保険適用外のためクリニックによって様々ですが、だいたい5000円から1万円ぐらいになります。
ブライダルチェックやレディースドックの場合は、その中に含まれていたり、オプション扱いになっている場合など様々ですので事前に確認が必要です。
病院やクリニックで測定する以外にも自宅で専用のキットを使って指先から採血し、検査機関に送付するという測定キットも販売されています。
こちらはお値段が少し高く、2万円ほどしますが、近くにAMHの検査をしてくれるクリニックがない場合や、病院やクリニックまで行く時間がない人にはお勧めです。
AMHを測定する意味とは?
AMHを測定する目的の一つは、卵巣内に残っている卵子の数の目安を知るという事です。
残りの卵子の数を知ることで、今後の妊活や不妊治療の進め方を考えるうえで一つの参考になります。
20代や30代でも、AMHが非常に低く出ることがあります。この場合、卵巣内の卵子の残りが少なくなっている可能性が高くなります。
もちろん、AMHの数値だけでは判断できませんが、卵子枯渇による早発閉経の可能性があるため、そちらを視野に入れて今後の妊活・不妊治療の計画を立てていく必要があります。
AMHの値が低いからといって、すぐに閉経するわけでもありませんし、妊娠できないわけでもありません。
AMHの値が低くても、適切な治療で妊娠している人もいますし、そもそもAMHの値が低いことを知らずに自然に妊娠している人も一定数いるだろうと言われています。
ただし、AMHの数値が極端に低い場合は早くに閉経を迎えたり、体外受精で刺激をしても採卵できなくなってしまう可能性があります。
だからこそ、AMHを測定して数値が低かった場合は、悠長に構えることなく、しっかりとライフプランを考えていってほしいと思います。
そしてこれは結婚している女性だけに言えることではありません。
未婚女性でAMHの測定値が低かった場合は、卵子凍結も視野に入れて検討してみてください。
卵子凍結すれば必ず妊娠できるわけではありません。
でも今の時点でAMHが極端に低い場合は、数年後子供を望んだ時には妊娠が難しいこともあります。
体外受精にチャレンジしても採卵すらできないこともあります。
そんな時に後悔しないためにも、卵子凍結も選択肢の一つとして考えてみてください。
AMHの測定は、今後の妊活や不妊治療の方向性を考える以外にも、体外受精の採卵時の卵巣刺激法を考えるときに使われます。
また、AMHの値が高ければよいというわけではありません。
AMHの値が高くなるに従い、今度は多嚢胞性卵巣症候群の可能性が高くなります。
病院やクリニックで検査を受けた場合は、その場で医師に相談が可能ですが、キットを取り寄せて自分で検査をした場合は、検査結果をみて自分で次の行動を判断しなければなりません。
キットで検査をし、AMHが低かったり、高かったりした場合は、そのまま放置してしまうのではなく、一度不妊専門クリニックに今後の妊活や不妊治療の進め方について相談しましょう。
勘違いしやすい!「AMH=卵子の質」?
AMHのことを、妊娠のしやすさや卵子の質ととらえている人も実は少なくありません。
AMHの測定値は、卵子の残りの数を評価するものであって、卵子の質を評価するものではありません。
卵子の質はAMHの測定値ではなく、年齢の影響を受けることになります。
その為、「AMHの値が低い=妊娠率が低い」にはならないことを知っておく必要があります。
ただし、AMHが低い場合は前述したように、妊活や不妊治療をできる期間が短くなる可能性があります。
その為、できるだけ早いタイミングで妊活や不妊治療をスタートする必要があります。
AMHが低くても、必ずしも、体外受精や顕微授精などの高度生殖医療を受けないと妊娠できないわけではありません。
不妊の原因は複数の要因があることも少なくありません。
AMHが低いと分かった時点で、他に不妊の原因がないか、夫婦ではやめに不妊検査を受けるようにしましょう。
他にも不妊の要因があった場合は、できるだけ早い段階で不妊治療をスタートする必要があります。
AMHはあくまでも目安の一つとして考えよう
AMHの検査を受けて、結果が悪くて「もう妊娠は無理なのではないか」と悲観される話を聞くことがあります。
しかし、あくまでもAMHは目安です。
そして、上述したとおりAMHは妊娠率を反映しません。
AMHが低くても、年齢が若ければタイミング治療や人工授精や1回の体外受精などで妊娠される方もいます。
まずは、一人で悩む前に不妊専門クリニックで相談しましょう。
そして、1日でも早く妊娠に向けて動き出すことが大切です。
最近は不妊専門クリニックでなくてもブライダルチェックやAMHの検査が受けられるクリニックが増えています。
ただこのようなクリニックで検査を受けた場合、その後の治療方針が明確に打ち出されないこともあり、検査結果だけみて「妊娠できないのではないか?」と不安になる場合もあるかもしれません。
心配な場合はまずは不妊専門クリニックで相談することをお勧めします。
また、逆に40代の方でAMHの値が高く「まだ大丈夫だろう」と安心されてしまう方もいらっしゃいますが、卵子の質はこちらの記事にも書きましたが年齢の影響を大きく受けます。
例えば、同じAMHであっても30歳と40歳では30歳の方が妊娠率は高くなります。
確かに40歳でAMHが高ければ、体外受精で複数の卵胞の採卵が可能になるかもしれませんが、それが必ずしも妊娠に結びつくとは限らないのです。
AMHの測定は、あくまでも今後の妊活や不妊治療の方向性や方針を考える一つの指標です。
この数値で、妊娠しやすいかどうかを判断することはできません。
AMHの測定結果に振り回されすぎずに賢く活用していくことが大切です。
参考資料:今すぐ知りたい不妊治療Q&A 第1版 医学書院