意外と知らない、精子の老化

「妊活や不妊治療に年齢的制限があるのは女性だけ、男性に年齢は関係ない」少し前までこのように思っている人が多くいました。
実際に、テレビやネットニュースでは芸能人の高齢男性が父親になるようなニュースも度々取り上げられていたのも影響し、男性は60歳でも70歳でも、女性さえ若ければ子供を持つことは可能だと思っていた人もきっと少なくなかったはずです。

しかし最近、少しずつですが男性にも生殖適齢期があることが知られてきました。
とはいえ、まだまだ男性には年齢は関係ないと思っている人も少なくありません。

今回は、精子の老化について、精子にダメージを与える可能性のある生活習慣についてお伝えしていきたいと思います。

精子はどのようにして作られるのか?

卵子はお母さんのお腹の中にいる胎児期に作られ、その後は増えることはなく減り続けます。その為、卵子の年齢は実年齢+1歳とも言われ、今では卵子が老化することは広く知られています。
では、精子はどうなのでしょうか?

精子は精巣の中にある、精細管という場所で作られます。精子は卵子と違い、3000万個の精子が毎日精細管で作られ続け、これらは思春期に始まり、老年期まで続きます

作られた精子は、精管という場所に送られ射精されるまでの間貯蔵されます。射精されるまでの間、精子は休止状態となり、何週間も生きていますが、次第に老化して死んでいきます。その為、禁欲期間を定めるより、定期的に射精して精子を入れ替えてあげるほうがよいと言われています。
死んだ精子は、最終的には上皮細胞に貪食されることになります。
ちなみに精祖細胞から精巣精子が完成するまでには約74日かかると言われています。

このように、常に精子は作られ続けるため、精子に老化は関係ないと多くの人は今まで思ってきました。

「精子も老化する」ということが証明された

最近の研究で”実は精子も加齢によって変化する”ということがわかってきました。
まだまだ、精子の加齢に関しては研究途中ですが、加齢による精子の変化についてはいくつか報告がされています。

卵子の老化により、トリソミーなどの染色体異常が増えることはよく知られておりますが、精子の老化ではその様なことは起こらないといわれております。しかしながら、産まれてくる子供の精神疾患小児がんが増えるという報告があり、これは精子のDNA損傷が原因の一つではないかと考えられています。

精子のDNA損傷の原因としては喫煙や、酸化ストレス精索静脈瘤などがあげられますが、加齢もその要因の一つだとも言われています。精子のDNAが損傷すると、産まれてくる子供の精神疾患や小児がんが増えるという報告があります。

男性の加齢とともにDNAが損傷した精子の割合が増え、その結果自然妊娠や、人工授精での妊娠率が下がるのではないかと考えられています。

自然妊娠に関しては年齢に幅がありますが、男性も35歳から45歳を境に、子供を望んでから妊娠するまでに時間がかかり、妊娠率も低くなることが報告されています。
また、男性が45歳以上になると、妊娠率が低く流産率が高いことを報告した論文もあります。

男性の中には、自分は運動もしているし、体力もあるから大丈夫と思っている人もいます。日常の運動習慣は大切ですが、それでもやはり年齢とともに精子は老化していきます。
そして、見た目の若さや体力と精子の状態は残念ながら一致しません。
年齢相応に精子も老化すると考えられています。

また、射精出来ている、問題なく性交渉できているから大丈夫だと考えている人もいます。
しかし射精出来ていても、その中に精子がいるかどうか、動いているかどうか、きちんと前進しているかどうか、正常な形態の精子がいるかどうかは別問題なのです。
これらに関しては検査してみないとわかりません。

女性は年齢があがるにつれて、自分自身の妊孕力に不安を覚える人も少なくありません。しかし、精子の老化はまだまだ知られていないため、男性のほうが悠長に構えてしまい、女性が不安やイライラを積もらせているというのはよく聞く話です。

データをみると、男性の妊孕力の衰えの年齢開始幅は35歳から45歳と広いですが、男性も35歳を過ぎれば、妊娠しにくくなるということを知識として持っておく必要があります。

女性の卵子の老化ばかりが注目されていますが、男性の精子も老化することを知り、妊活や不妊治療の計画を立てることが大切になってきます。

年齢以外に精子に影響を及ぼす可能性のあるもの

精子に影響を及ぼす可能性のあるものは、年齢ばかりではありません。

男性不妊の原因は大きく分けると、造精機能障害、精路通過障害、性機能障害に分けられます。

2015年度の厚生労働省の全国調査*によると、その中でも造精機能障害が82.4%を占めていました。その中の36.6%は精索静脈瘤によるものとされており、51.0%以上が原因不明でした。
*2015年度厚生労働省子ども・子育て支援推進調査研究事業「我が国における男性不妊に対する検査・治療に関する調査研究」より

原因不明の中には、肥満メタボリックシンドローム薬剤性が原因ではないかと考えられるものも含まれています。

薬に関しては、現在服用している薬だけではなく、過去に服用していた薬に関しても気になるものがあれば一度医師に相談されることをお勧めします。

また、最近は精液所見とBMIとの関係も報告されています。
適切なBMIは18.5~25と言われており、やせすぎも太りすぎも健康によくありませんが、特に男性の場合は肥満傾向で精液所見に問題が多いです。その場合はダイエットをすることで、精液所見の改善が見込める場合があります。

特に2人目不妊のご相談では、夫が1人目妊娠時より5㎏、10㎏体重が増加していたというお話を伺うこともあります。
また、それ以外にも脂質異常(高コレステロール血症 中性脂肪の値が高い)や高血糖、高血圧を健康診断で指摘されているという場合も。
脂質異常症や高血糖、高血圧も精液の所見を悪化させる要因として知られています。

これらの健診項目は体調にすぐに変化が出ないため、健診結果を放置していたり、生活習慣や食事の見直しを指導されているにも関わらず、そのまま放置していたりする人も少なくありません。

健康診断の結果に関しては、判定だけを見てそれ以外の項目をきちんと見たことがないという人もいます。

仮にA判定であっても、体重が徐々に増加傾向であったり、血圧、中性脂肪、コレステロール、血糖値などが基準値上限ギリギリであったり、以前と比べると数値が悪くなっていたりする場合は生活習慣の見直しを考える必要があります。

野菜不足や脂質過多など偏った食事をしていないか、夜遅い時間にたくさんの量を食べていないか、お菓子やジュースなどの間食は多くないかなど、まずは自分の食事を見直してみてみましょう。

また、毎日、お昼はラーメンや丼ぶり、カレーなどカロリーや脂質ばかりが高く、野菜などが足りていない食事を知らず知らずに続けている可能性もあります。
偏った食事も、血圧、中性脂肪、コレステロール、血糖値などに影響を及ぼしてくる可能性があります。

生活習慣と男性の妊孕性に関係するもの

それ以外にも、年齢関係なく精液所見に影響を及ぼす生活習慣があります。
あてはまるものがあれば、参考にしてみてください。

喫煙習慣

酸化ストレスの上昇やDNAの損傷などが言われています。
タバコは、妊活や不妊治療だけではなくそれ以外の健康にも害を及ぼすことが知られています。
最初からすべてやめるのは難しくても、少しずつ本数を減らしていき、禁煙に近づけていきましょう。

アルコールの摂取

たまに飲酒する程度は特に問題ないと言われていますが、過度な飲酒は精液所見の悪化につながります。
適度な1日のアルコール量は、ビールなら中瓶1本程度(500㏄)です。
あまり飲みすぎないように、適量と休肝日をつくりながら、上手にアルコールとは付き合っていきましょう

肥満

こちらは先に記載しましたが、肥満は精液所見に影響してきます。
BMI25以上の場合は、食事の見直しと適度な運動を心がけましょう

睡眠

睡眠障害は妊孕性低下を招くと言われています。
適切な睡眠時間は人によって違いますが…
・朝、すっきりと目覚められない
・日中に突然睡魔に襲われることが度々ある
・日中も眠くてやる気が起きない
などの場合は、睡眠時間が足りていないかもしれません。

上記以外にも陰嚢部に熱がこもると、精液所見に影響を及ぼすというデータもあります。
熱がこもりにくい服や下着を選んだり、サウナなどはほどほどにしましょう。
また、カフェインに関しては現時点でははっきりしたことはわかっていません

男性も、加齢や生活習慣、食事が妊孕性に影響を及ぼすことが、少しずつですが広く知られるようになってきました。
妊娠に関する年齢は決して女性だけの問題ではありません。
男性の年齢も影響を及ぼしてくるという事をしっかりと理解したうえで、お二人で妊活・不妊治療を進めていっていただければと思います。

 

この記事の監修医師
菊地 盤(きくち いわほ)
産婦人科専門医/生殖医学会生殖専門医
順天堂大学医学部卒業。順天堂大学産婦人科先任准教授(助教授)、順天堂大学医学部附属浦安病院リプロダクションセンター長を経て、2019年よりメディカルパーク横浜の院長を務める。順天堂大学浦安病院在籍時には、世界で初めて市(浦安市)と提携し「卵子凍結」プロジェクトの責任者として、女性の妊孕性温存に携わる。

参考資料
厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト
臨床泌尿器科 第73巻 第13号 医学書院
カラー図解 人体の正常構造と機能 VI 生殖器 日本医事新報社

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