流山おおたかの森駅より徒歩2分の「おおたかの森ARTクリニック」は開業して今年で3年目。
おおたかの森ARTクリニックは、栄養や東洋医学、アロマテラピーなども取り入れ、多角的に患者様の治療に取り組んでいるクリニックです。
今回は気さくで明るい印象の香川院長に患者様への想いや、治療についてお話しをお伺いしました。
目次
産科はハッピーなイメージとは程遠く、大変なところだった。
香川先生が産科医をそもそも目指したきっかけは何かありますか?
産科と言えば「出産おめでとう」という、患者様も嬉しい、私達も凄く嬉しい、皆がハッピーになる科だと思い最初は単純な気持ちで入ったのですが、いざ入局したところ、とても大変な科でございました(笑)。
私が在籍していた日本医大は周産期が比較的得意な大学だったのですが、腫瘍や、生殖の分野、様々な分野があるのだと分かり、一通り周産期、生殖、腫瘍等を学んでいきました。
中でも私にとって女性の内分泌・ホルモンの病気が、とても複雑で一番やりがいのある学問、医療だな、と感じて最終的には生殖の道に進みました。
大学病院の後、木場公園や窪谷産婦人科でもお仕事をされていますが、そこではどのようなご経験を積まれたのでしょうか。
木場公園は、院長の吉田先生にたまたまご縁があって声をかけて頂きました。
木場公園は大学と違ってとても症例が多く、様々な患者様を診療することができ、本当に勉強になりました。
吉田先生の卵巣刺激、調節卵巣刺激の方法も間近に見て勉強できたので、いまだに私も吉田先生のやり方で高刺激をメインに行っています。
一方、窪谷先生は日本医大の先輩で、もともと窪谷産婦人科は周産期しか行っていませんでしたが、生殖医療の立ち上げの際にお声がけ頂きました。
卵巣には個性がある。一人一人に合わせるテーラーメイド治療。
おおたかの森ARTクリニックは開業今年で3年目ですが、患者様の年齢層は何歳くらいの方がいらっしゃいますか。
30代前半の方もいらっしゃいますが、年齢層でいうと35歳以上から45歳位までの患者様がいらっしゃいます。一番多い年齢層は、35歳から40歳ですね。
香川先生は先ほど、高刺激がメインとは言いつつも、テーラーメイド治療も掲げていらっしゃいます。先生の治療方法についてお聞かせいただけますか?
皆さんの卵巣は個性があり、同じ年齢でもAMHの値も違いますし、お注射の効き方も違ったり、本当に千差万別です。
一人一人個性があるので、その個性を見つつ、排卵誘発法を決めていくということになります。
卵が沢山採れそうな患者様は高刺激で行いますし、AMHの値も低くて残存卵子数が少ないであろう患者様はお金も、体にも負担がかかってしまうので、高刺激を選択せず低刺激で行うこともあります。
また、自然周期で行う場合もありますし、それは患者様の卵巣の状態をなるべくきちんと見て、予測して刺激法を決定していく、ということです。
おおたかの森ARTクリニックの医師は現在何名ですか。
私ともう一人は八木先生です。八木先生は漢方外来を日本医大の方で長く診ていらした先生で、婦人科の先生でもあるので不妊治療はもちろん、漢方全般も精通されています。
現在スタッフも含めて何名体制でいらっしゃるんでしょうか?
全員で16名体制です。皆で、協調性を持ち、協力し合って、困難を乗り越えよう、ということを掲げています。
受付や検査技師、看護師、胚培養士は部署が離れているので、コミニュケーションが各部署の間で取りにくいこともありますが、できる限り月に1回など定期的に全体で集まり、課題や困っていることを話し合うことで、解決して乗り越えるようにしています。
食事をきちんと摂れば、良い卵も採れる?驚くほどの変化も。
貴院では、東洋医学、アロマセラピー、栄養といった方面にも力を入れている印象を受けました。色々と取り入れてるのは何かお考えがあるのでしょうか?
最先端の機械を導入して、本当に高い技術で私たちもアート(生殖医療)を行っていますが、良い卵が採れなかったり、胚盤胞にならなかったり、なかなか結果がでないこともあります。本当に一生懸命やってるんだけど、なかなか結果が出ない患者様がいらっしゃいます。
私が昔からずっと思っていたことなのですが、何とかいい卵が取れないかな、とか、もうちょっと精子が良かったら上手くいくんじゃないか、と感じることが沢山ありました。
これは排卵誘発剤を使ったから、刺激の方法を変えたから卵の質が良くなるということでもなく、患者様がご自身で持っている「卵が育つ環境」を改善していかないと、なかなか難しいんじゃないかと思うことが多々あったわけです。
患者様の多くは仕事をしていて忙しい中、通院していて、時間に追われて生きている、という方々です。実際に食生活などのお話を聞いてみると「1日1食しか食べていないです。」「朝はパン、昼はパスタ、夜はラーメンでした。」といったお話を沢山耳にします。
たんぱく質が不足していたり、脂質を摂りすぎていたり、栄養が偏っている方が本当に多いなぁという印象があり、これは何とかできないかな、とずっと思っていました。私自身が外来をやりながら、食事の話もする、というのは難しいため、ここは栄養士の先生に助けて頂こうということで、管理栄養士の先生にお声がけし、栄養指導をやって頂いています。
管理栄養士の栄養相談はどのような形で行っていますか?
コロナのこともあり、LINEやZOOMに切り替えよう、ということになり、去年から対面での栄養指導ではなく、オンラインでの指導を実施しています。
オンラインであれば時間と場所など、自由に患者様のご都合に合わせて行えるので、忙しくてなかなか栄養指導を受けたくても受けられなかった方でも、受けることができるようになりました。
実際に栄養指導後に採卵数が増えたり、卵のグレードが良くなった方はいるのでしょうか?
驚くほど良くなった方が何人もいらっしゃいました。やはり食事って凄く大事だなって感じることが沢山ありましたね。
患者様の中には食事なんてどうでもいいと思っていらっしゃる方が結構多いのですがきちんとお話しすると「食事ってそんなに大事だったんですね。食べ物で私たちの体って作られているんですもんね。」といった感じで納得されることがあります。
栄養について重要視されているからこそだと思いますが、ビタミンDや亜鉛の検査をされている理由は何でしょうか。
ビタミンDが低いと妊娠率が下がる、着床率が悪くなるというデータが出ていますので、ビタミンDを計測するようにしています。
本当にビタミンDは、皆様驚くほど低くて、子供だったら”くる病”、このままお婆さんになったら骨粗鬆症になってしまう、という程低い、10ng/mLを切っているような方もいらっしゃいます。
通常、20ng/mL前後くらいの方が多いのですが、理想は30ng/mL以上と言われています。ビタミンD不足については食事もそうですし、あとは日に焼けるの恐れて、皆さん紫外線を徹底的にカットしてますので、ビタミンDが生成されないということも理由に挙げられます。
不足している方についてはビタミンDのサプリメントを飲んで頂いています。また、銅が高過ぎると妊娠率が落ちるというデータもあり、銅を下げるには亜鉛を上げることが大切なため、銅と亜鉛をセットで測っています。
男性の場合、サプリメントで精子の質が変わる方はいらっしゃるんでしょうか?
男性の場合はサプリメントを使っても、クロミッドを使っても、漢方を使っても、なかなか改善しない方が結構多い印象です。
当院では男性不妊の診察は行っていないため泌尿器科を紹介しています。精索静脈瘤でオペが適用になる方は一握りで、ほとんどは原因がわからない場合が多く、顕微授精、体外受精に進む方が多いです。
また、明らかにヘビースモーカーで、タバコをやめて欲しいな、と思う方も中にはいらっしゃるのですが、タバコを止めることが本当に辛いようで、私が申し上げても、奥様が怒っても、なかなか止められない方もいらっしゃいます。
漫然と同じ治療を繰り返さない。良い方法は取り入れていく
体外受精で通院する回数は一般的に何回ほど通う必要がありますか?
当院は新鮮胚移植は行っていません。全胚凍結をして次周期に胚移植をすることになります。
そのため、生理が来てから採卵までの通院回数が、生理の1日目から3日目で一回来て頂いて、生理の9日目でもう1回来て頂いて、で11目でもう一回来て頂いて、大体13日目で採卵の方が多いので、採卵の周期は4回です。
次の周期に胚移植をすることになりますが、胚移植の周期も大体生理が来てから妊娠判定までの通院回数は4回ぐらいです。合計で8回ほど通って頂きます。
ちなみに採卵のときは、どのような麻酔を使っていらっしゃいますでしょうか?
当院は21ゲージの針で一番細い採卵針を使っているので、痛みも割と少ないのかなと思います。なので、基本的には局所麻酔で採卵を行います。
もちろん、静脈麻酔でも行えます。痛いんじゃないか、という恐怖心がある方は静脈麻酔を選択されることもあります。
血小板由来因子濃縮物療法という治療をホームページで拝見しました。どのような治療法なのか教えてください。
血小板の中に成長因子が沢山含まれていて、この成長因子が子宮の内膜を増殖させたり、内膜を増殖させ厚くさせたり、成長因子そのものが、胚が子宮の内膜に着床するのを助けてくれます。
この治療は反復着床不全で何回も胚盤胞を移植しているのに着床しない方や、エストラジオールの血中濃度をどんなに上げても、明らかに内膜が薄く、厚くならない方に行います。
PFC-FD療法と言うのですが、患者様の血液中の血小板を壊して、血小板の中の成長因子だけを抽出して、胚移植の周期に、子宮の中に2回注入してから胚移植を行います。
そこまで内膜が厚くならない方というのは、頻度的には低いですが、当院では半年に1人くらいいらっしゃいます。
内膜が厚くなるという、効果はありますか。
内膜は本当に1 mm 厚くなったっていう方もいらっしゃいますが、あまり変わらない方もいますし、これは様々です。本当に成長因子を入れるだけでも、違ってくる可能性はあるので何もしないで今までと同じ治療を繰り返すよりは良いと考えています。
受精卵を個別に培養するから卵の環境を一定にキープできる
培養室についてお伺いしたいのですが、認定培養士はいらっしゃいますか。
卵子学会の認定の胚培養士が2名、とあとエンブリオロジスト学会認定の胚培養士が2名ですね。
全症例個別スペースで培養されてるということですが、メリットは?
取り違いがなくなるということと、培養器の扉を開ける回数っていうのが少なくて済むということです。
複数の人と同じスペースで培養する場合、ある人の卵が入ったデッシュを出したいんだけれども、そのデッシュを出すために他の患者様のお部屋も同時に開けてしまうことになるため、培養環境が他の受精卵に影響します。
1人1人個別に培養して必要最低限しか扉を開けないという管理体制をとっています。
他にもLEDライトにしていたり、バックアップ電源があったり、胚に対して負担をかけないよう徹底してらっしゃる印象がありますが、他に何か培養で気をつけていることはありますか。
顕微授精は、胚培養士の技術で受精率が変わってくることがあると思います。
そこで私が胚培養士の個々の顕微授精を行なった受精率や変性率をすべて定期的にチェックするようにしており、なるべく受精率は90%以上を目指しています。私のチェックが入るとちょっと胚培養士にとっては嫌がられるところなんですけれども(笑)。
アシステッドハッチングや、ヒアルロン酸添加は全症例対象ですか?
アシステッドハッチングもヒアルロン酸の添加も全症例基本的に行っています。いいことは何でも全部取り入れようっていうスタンスです。
精子の選別でミグリス®とZymōt TM スパームセパレーターというものを使っていますが、これはどのようなものなのでしょうか。
今までは従来のパーコール法とスイムアップという方法で精子の選別を行なっていたのですが、その場合、遠心分離機を使うので精子のDNAの断片化といって、精子のDNAに損傷を受けていました。
多かれ少なかれDNAの断片化は遠心分離機では起きるというデータも出てるので、DNAの断片化をできるだけ少なくしようということで、遠心分離機は使わずに精子の選別をする新しい精子の選別方法として、ミグリスや、スパームセパレーター等を最近は使っています。
ただ、使った方が良い患者様と使っても使わなくてもどちらでも良い患者様がいらっしゃいます。どういう患者様に使うとメリットがあるのか、というのは新しい方法であるため、手探りな状態であるところもあります。
他のクリニックでも最近使用されている施設が増えてきているので、これから沢山のデータが出てきて、こういう患者様は使った方が良いというのが明確になるのではないでしょうか。
体外受精の治療成績について教えて下さい。基本は全部凍結されているということなんですが、具体的に妊娠率は年齢別で何パーセント位でしょうか。
去年1年間の成績ですが、29歳以下の胚移植数あたりの妊娠率40.43%、30〜34歳の方が49.6%、35〜39歳が38.69%、40〜44歳が29.41%、45歳の方は6人胚移植ができて、あとの方は胚移植までは難しかったのですが、6人の方のうち3人妊娠して、卒業されました。
ということで、妊娠率50%という、とんでもない値が出ていますが、症例数が少なすぎて、正しいとは言えないですね。
不妊治療は患者様との二人三脚。苦労が報われると嬉しい。
香川先生がこのお仕事をされていて、やりがいを感じる時はどんな時でしょうか。
本当に患者様と二人三脚で戦っているという感覚です。
時間がかかって採卵も、移植も何回もやって、やっと結果が出て赤ちゃんの心拍も確認できて「卒業できたー!」っていう、本当に苦労して卒業になる患者様には「本当にもう、私達よくがんばったよね!」という気持ちで、最後は「よくがんばったー!元気でねー!」と送り出しています。
本当に時間がかかった患者様ほど思い出深いというか、卒業できた時は嬉しくて、仕方ないですね。
治療の途中で、患者様自身が駄目かもしれないと考えている時も分かるので、患者様が「諦めずに頑張って続ける。」て言ってくれると「じゃあ私も頑張る!」といった気持ちになります。頭が下がるというか、私の方が患者様に対してお礼を言いたいというか、患者様って凄いなって思います。勇気を貰っています。
最後にこれから通院される患者様へメッセージをお願いします。
女性は妊娠のタイムリミットがあるので、35歳以上で悩んでる患者様はまずは来て、相談して頂きたいですね。