前回は体外受精へのステップアップのタイミングについてお伝えしましたが、不妊治療、特に体外受精を長く続けていると、いつまで治療を続けていけばいいの?と悩まれる人も少なくありません。この記事では、そんな時に知っておきたいステップダウンという選択肢について解説していきます。
この記事の監修医師
産婦人科専門医 / 生殖医学会生殖専門医
順天堂大学医学部産婦人科客員准教授
順天堂大学医学部卒業。順天堂大学産婦人科先任准教授(助教授)、順天堂大学医学部附属浦安病院リプロダクションセンター長を歴任。世界初となる公費助成の「卵子凍結保存プロジェクト(千葉県浦安市)」の責任者。2019年メディカルパーク横浜を開院。
目次
体外受精のやめ時を考えた時に知っておきたいこと
実は“体外受精のやめ時=妊娠をあきらめる時”と思われる方が結構いますが、最初に知っておいてほしいのが、体外受精をやめる時が必ずしも妊娠を諦める時ではないということです。
もちろん、不妊の原因によっては体外受精の終了が妊娠を諦めるということになる人もいますが、全ての人が体外受精をやめたからと言って、妊娠を諦める必要があるとは限りません。
自己流の妊活を続けるという方法や、治療方法をステップダウンして、クリニックでタイミング治療や人工授精を続けるという選択肢もあります。
ただ注意してほしいのが、周りからの「不妊治療ってあきらめた時に授かるらしいよ」「不妊治療をお休み中に自然妊娠しやすいらしいよ」という言葉です。
確かに不妊治療をお休み中や不妊治療をあきらめたら妊娠したという話はよく耳にします。でも、それらは本当に限られたごく一部の人の話でしかないのです。
特に妊娠の話に関しては、おめでたい話は話題になりやすいですが、そうでない話は話題にはなかなかあがってこない点も知っておく必要があります。
ステップダウン出来る場合と出来ない場合とは?
体外受精後の選択肢として
・自己流の妊活
・クリニックでのタイミング治療
・クリニックでの人工授精
・妊活・不妊治療の終結
という4つの選択肢がありますが、だれもがステップダウン(自己流妊活 タイミング治療 人工授精)を選べるわけではありません。
また、ステップダウンをしても自己流の妊活ではなく、人工授精やタイミング治療を続けた方がいい場合もあります。
体外受精からステップダウン出来ない場合
・卵管に問題がある場合
卵管が詰まっている場合や、卵管を切除しているなど卵管に問題がある場合は、ステップダウンして人工授精やタイミング治療、自己流の妊活を選択することはできません。
ただ、片側だけの卵管閉塞や卵管切除であれば、妊娠の確率が両方の卵管がある場合よりは下がってしまいますが、ステップダウンをすることは可能です。
・精子に重度の問題がある場合
精液中にまったく精子のない場合や、精子の数がかなり少ない、運動している精子がほとんどいない、正常形態の精子が非常に少ない場合なども体外受精からのステップダウンは難しくなります。
特に精液中に精子がまったくいない無精子症の場合は、TESE(精巣内精子回収術)による顕微授精以外の選択肢はありません。
ただ、上記以外の、精子の数が少なかったり運動率や形態率に問題がある場合は人工授精も可能な場合があります。
そのような状態でステップダウンを考えている場合は、まずは通院しているクリニックの医師に相談してみましょう。
ステップダウンしてもクリニックでの不妊治療を継続したほうがいい場合
・精子に問題がある場合
必ずしも体外受精が必須ではないけれども、精液中の精子の数や運動率、正常形態率が基準値以下の場合は、自己流妊活やタイミング治療にステップダウンするのではなく、まずは人工授精へのステップダウンをお勧めします。
また、本来ならステップダウンのタイミングで考えることではありませんが、もし男性不妊で男性不妊外来を一度も受診しないまま、体外受精へステップアップしていた場合は、一度男性不妊外来を受診されることも検討されてみてはいかがでしょうか?
男性不妊外来で男性不妊の原因がわかることもあり、原因によっては治療をすることで人工授精やタイミング治療で妊娠が可能になる場合もあります。
・排卵障害がある場合、生理周期が安定しない場合
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断されている場合や、生理周期が安定せずに排卵まで時間がかかる場合で、特に精子は問題がない場合は、人工授精ではなくタイミング治療にステップダウンするという選択肢もあります。
この場合は、排卵誘発剤を使用しながら、クリニックで排卵のタイミングを確認してもらうことになります。
排卵に問題がある場合、自己流の妊活までステップダウンしてしまうと、排卵日が特定しにくかったり、無排卵の月があったり、排卵まで期間がかかってしまう場合もありますので、出来ればクリニックでタイミング治療を受けた方がいいでしょう。
人工授精やタイミング治療にステップダウンする場合は、必ずしも体外受精の為に通っていたクリニックに通う必要はありません。通いやすいクリニックや待ち時間の短いクリニックに転院するのも一つの方法です。
ただし、その場合は今までの治療経緯を最初から説明する必要があります。
もちろん紹介状を書いてもらって転院するというのも一つの方法です。
自分にとってどの方法がいいのかよく検討してみましょう。
自己流の妊活にステップダウンが可能な場合
男女ともに原因がない場合は不妊治療をやめて、自己流の妊活にステップダウンをするという選択肢もあります。
ただ、気を付けたいのがステップダウンをするということは妊娠率も下がる可能性があるという点です。
年齢や今までの治療の過程にもよりますが、ステップダウンを考える際は、ある程度納得いくまで体外受精の治療をやり切ってからの方がいいかもしれません。
費用の面や、仕事との兼ね合い、精神的な面で一度不妊治療を中断する場合は、いつまで不妊治療を中断するか、1年、2年と一旦期限を決められることをお勧めします。
1年後や2年後に必ず不妊治療を再開しなければならないというわけではなく、そのタイミングでもう一度どうするかを2人でしっかりと話し合ってみてください。
ステップダウンを考えるタイミングはいつ?
ステップダウンを考えるタイミングは人によって様々です。
主なものをあげると
・体外受精の終わりを考えているとき
・年齢
・費用面での限界
・仕事と治療の両立の問題
・いったん治療をお休みしたいとき
などがあります。
公式なデータがないため、各クリニックが公表しているデータにはなりますが、体外受精を実施した場合、最初の4回で7割近い方が妊娠していきます。その後の妊娠率の増加は緩やかになっていきます。
その為、妊娠率や費用面との兼ね合いも考えながら、補助金の区切りとなる6回を一つの目安として体外受精の終わりを考える人も少なくありません。
また、最初から不妊治療にかけられる費用は200万までや300万までと決めて不妊治療に望まれる方もいます。
他にも、40歳や43歳など年齢を一区切りに不妊治療の終了を考える人もいるでしょう。
もちろんこれからは2人の人生を考えていくと言われる方もいらっしゃるでしょうし、特別養子縁組などを検討される方もいるかもしれません。
ただ、「体外受精を続けるのは難しいけど、でもまだ妊娠はあきらめたくない」ということであればステップダウンという選択肢も検討してみてほしいと思います。
それ以外にも、何年も不妊治療を続けていると、仕事と治療の両立が上手くいかなくなってきたという場合や、メンタル的にいったん体外受精をお休みしたいという時もあるかと思います。
そんなときも、完全に妊活や不妊治療を休んでしまうのではなく、一度ステップダウンするという事を検討されてみてはいかがでしょうか?
年齢的な問題はありますが、一度、ステップダウンしてからもう一度体外受精にトライするという選択も可能です。
どうしても不妊治療というと、“タイミング治療→人工授精→体外受精・顕微授精→不妊治療の終わり、妊娠をあきらめる”という流れを思い描きがちですが、“タイミング治療→人工授精→体外受精・顕微授精→人工授精→体外受精・顕微授精”のように、一度ステップダウンした後、またステップアップするという選択もあります。
体外受精の先には終わりしかないと思われがちですがそうではありません。
二人だけで決められないというのであれば、クリニックの医師や看護師、カウンセラーなどに相談してみるのも一つの方法です。
いかがでしたでしょうか?今回はステップダウンという選択肢について解説しましたが、今後の不妊治療の進め方を考える上で、一つの参考にしてみてください。